紅楼夢アイテム事典

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[その1] [その2
(1)恋愛にまつわったアイテム
通霊宝玉(第1回~)
 賈宝玉が生まれた時に口に含んでいた五色の透き通った美しい玉(赤ん坊の口から怪しげな石が出てきたのにめでたい!珍しい!と喜んでいていいのでしょうか…)。雀の卵ほどの大きさで、茫茫大士の手による「莫失莫忘、仙寿恒昌」の8字が刻まれています。もちろん、大荒山は青埂峯のふもとに捨てられていた荒岩の仮の姿。
 宝玉はこれを常に頸から佩げていましたが、婚儀前に紛失し、宝玉は白痴状態に陥ります。俗事の禍を避けるために茫茫大士が持ち去ったということですが、石頭記は「通霊玉が自分の目で見たもの」を記したはず。この間の記述は想像で書いたのでしょうか…

金の首飾り(第8回~)
 宝釵が身につけている錠前型の首飾り。茫茫大士が「必ずともに黄金造りの佩げ物に彫りつけておくように」と「不離不棄、芳齢永継」の8字を授けました。これを受けて作られた珠宝と黄金でつくった佩げ物。
 この8字は通霊宝玉の文句と対になっており、「金玉縁」により宝玉と宝釵は結ばれる運命にありました(考えてみると茫茫大士が勝手に金玉縁を作ったのでは?)。

風月宝鑑(第12回)
 太虚幻境の空霊殿から出たもので、警幻仙姑の手づくりの品。渺渺真人が宝鑑を賈瑞に渡す際に「邪思妄動の症状をいやし、済世保生の功徳を授ける」と言っています。裏面は真(真実の姿)、正面は仮(夢想・願望の世界?)を写し、裏面を3日見続ければ本復できるとされました。
 賈瑞が覗くと裏には髑髏の立ち姿、表には手招きをする熙鳳の姿が映っていました。賈瑞は表の世界に浸って精気を使い果たし、息絶えています。

金麒麟(第29回~)
 史湘雲が宮中製の組み紐で下げている頸飾り。一方で宝玉は張道士から別の金麒麟をもらい、2つの麒麟は第31回で対面します。
 一説には2つの麒麟はもともと対で、一個は史家に伝わって湘雲に渡り、一個は張道士(史太君が贈った?)から宝玉に渡りました。曹雪芹の遺稿ではこの麒麟はのち宝玉から衛若蘭に渡り、若蘭と湘雲がこの縁により結ばれたそうです。

茜香羅(せんこうら・第28回)
 蒋玉函が北静郡王から賜った緋色の腰帯。茜香国(どこ?)の女王からの献上品で、夏に締めると肌からよい香が出て一つも汗をかかないといいます(どういう原理だろう?)。蒋玉函が宝玉と初対面した時、記念の品として進呈しました。一方、宝玉が代わりに差出した海老茶色の腰帯は実は襲人のもので、部屋に帰った宝玉はこれを襲人に渡します(結果的に蒋玉函と襲人が腰帯を交換したことになります)。
 襲人が蒋玉函が嫁いだ時、お互いこれを見せ合い、因縁が前世から定められていたことを信じるに至りました。

玉頂金豆(第34回)
 賈薔が齢官に買ってきた小鳥。銀子で一両八銭也。エサをやると小鳥が舞台をぐるぐる廻ったり、鬼の面やノボリをくわえたりします。齢官は「(屋敷に閉じこめられ、くだらぬ稽古をさせられている)私どもに当てつけているんですわ」とお冠。
 これを聞いて賈薔は大慌てで小鳥を放し、鳥籠を叩き壊してしまいました。賈薔と齢官の恋はこの後、進展せずに終わったようです。

仏手柑(第39・41回)
 探春の部屋の飾り物。紫壇の台上に大観窯の大盤があり、数十個の大仏手柑が盛られています。板児(劉婆さんの孫)がおもちゃにして遊んでいると、大姐(巧姐)がそれを見て、欲しいといって泣き出し、大姐の柚子と板児の仏手柑を交換しました。
 雪芹の遺稿では、板児と巧姐が将来結婚することになり、ここでそれを暗示させたそうです。

雀金裘(じゃくきんきゅう・第52回)
 史太君が宝玉に与えた烏雲豹のコート。オロシア国の特産で孔雀の毛を糸によって織り上げたもの。
 宝玉は後ろ襟のところにうっかり焦げ穴を作ってしまい、仕立屋も材料が分からずに直せない有様………裁縫に秀でた晴雯は病をおして徹夜でこれを繕いましたが、これが元で病が悪化してゆき、その若い命を落とすことになります。

鴛鴦剣(第66回)
 柳湘蓮が肌身放さず持ち歩いていた剣。表に龍とキ(想像上の動物)が格闘している彫刻が施され、宝石が散りばめられた劉家伝来の遺品。湘蓮が尤三姐との結納の品として納めました。
 が、湘蓮は尤三姐が寧国邸に連なる人物と聞いて「あっちの人間は汚れ者、誰が結婚なんかするかぁ!」てな事で婚約を破棄、これを見た尤三姐は鴛鴦剣で自分の頸を刎ねてしまいました。そのあとこの剣はどうなったんでしょう?

(2)薬関係
人参養栄丸(第6・28回)
 黛玉が賈府に来た時に「ずっと人参養栄丸を飲んでおります」と言っています。人参養栄丸は気血の不足、神経衰弱や体質虚弱に効果がある丸薬。

冷香丸(第6・91回)
 宝釵の持病(熱病の一種で咳が出るらしい)の薬。茫茫大士が処方(海上方)を伝え、それは次のような気の遠くなるものでした(しかも他の薬が一切効かないそうですから厄介)。
 「春咲きの白牡丹、夏咲きの百蓮、秋咲きの白芙蓉、冬咲きの白梅の花蕊を12両ずつ用意し、春分の日に日なたで乾し、粉薬と混ぜてひいておきます。雨水の日の雨、白露の日の露、霜降の日の霜、小雪の日の雪を12銭分ずつ集めた水を薬と混ぜます。12銭の蜂蜜と白砂糖を加えて丸薬にしてできあがり。甕に詰めて花の根元に埋めておきます」

八珍益母丸・左帰丸・右帰丸・六味地黄丸・天王補心丹(第28回)
 いずれも宝玉が丸薬について王夫人と話をした時に出てきた丸薬の種類。
「八珍益母丸」は虚弱体質・生理不順の薬。「左帰丸」は補益腎陽(腎に蓄えられている陰精を滋養して代謝機能を活発にする)の補陰薬。「右帰丸」は温補腎陽(腎の精を増やして体を温める力を補助し腎の働きを助ける)の補陽薬。「六味地黄丸」は腎陰虚証(腎の陰液が不足したことで現れる証)の薬。「天王補心丹」は気陰虚性不眠症・神経症の薬。

香雪潤津丹(第28回)
 王夫人のもとを訪ねた宝玉が、うつらうつらしていた金釧児の口に押し込みました。「紅楼夢鑑賞辞典」では出所不明とのこと。飴のようなものでしょうか?

黎洞丸(れいどうがん・第31回)
 襲人の脇腹を蹴飛ばしてしまった宝玉が、侍女見習に買ってこさせようとした打撲用の薬。山羊の血を配合して用いることから「山羊血黎洞丸」というそうです。

梅花点舌丹・紫金錠・活絡丹・催生保命丹(第42回)
 鴛鴦が劉婆さんにお土産として渡したもの。「梅花点舌丹」と「紫金錠」は解毒剤。「活絡丹」は血行を良くする(血管を拡張し血液循環を改善する)薬。「催生保命丹」は難産を軽くする薬。

祛邪守霊丹・開竅通神散(第57回)
 宝玉が紫鵑の冗談を真に受けて精神錯乱になった時に、史太君が調合させた秘薬。「祛邪守霊丹(きょじゃしゅれいたん)」は精神安定剤のようですが、「紅楼夢鑑賞辞典」では出所不明とのことですが、「開竅通神散(かいきょうつうじんさん)」はひきつけ、関竅(臓器と五官)不利、心胸煩悶などの薬。

薔薇硝(そうびしょう・第60回)
 杏斑癬(きょうはんせん)という湿疹につける薬。蕊官からの贈り物として芳官に届けられた時、たまたま居合わせた賈環が「半分分けてよ」とせがみます。芳官は茉莉粉を替わりに包んで渡しましたが、それを知った趙氏、「小娘が、うちの子をペテンにかけおって!」と怡紅院に怒鳴り込んでいきます。

茯苓霜(ぶくりょうそう・第60回)
 粤東(広東省東部)の千年松の根本に生えるマツホドのエキスを採って薬と調合して粉にしたもの。母乳(または牛乳か白湯)で練って毎朝一杯飲むと精がつくとのこと。門番をしている柳五児の伯父が粤東の役員から頂戴しました(ホントは茯苓の産地は雲南だそうですけど)。
 五児は茯苓霜を芳官にお裾分けするため怡紅院を訪ねましたが、帰りに林之孝の女房に鉢合わせします。折から王夫人の部屋で玫瑰露が紛失する事件が起こっていたため、五児は盗みの疑いをかけられて一晩軟禁されました。

玫瑰清露(まいかいせいろ・第34・60回)
 ハマナスの香をつけたシロップ。もともとは宝玉が父に折檻されて寝込んでいた時、王夫人が宝玉に飲ませるようにと渡したもの。襲人が余りを芳官にくれてやり、芳官が五児にお裾分けしたものが、のちに林之孝の女房に見つかって窃盗の証拠とされます。
薬じゃないですけど、便宜上ここに入れました。

調経養栄丸(第77回)
 気血両虚(血・気の不足)や月経不順の治療薬。王夫人が煕鳳のために調合させようとしますが、朝鮮人参を切らしてバタバタするくだりが描かれます。

療妬湯(りょうととう・第80回)
 極上の秋梨1個、氷砂糖2銭、陳皮1銭を茶碗3杯の水で煎じた飲み物。宝玉に「女の人の嫉妬を直す薬」を求められた王一貼が、これを毎日飲めば直るかもしれないと言ったもの。百歳になるまで飲み続ければ、人はいつか死ぬので、そしたら焼き餅をやくどころではなくなる、というオチでした。チャンチャン

黒逍遙(こくしょうよう・第83回)
 王太医が黛玉を診て処方した薬。肝鬱脾虚(肝脾の不調)、婦女崩漏(子宮内出血)などの治療薬。

四神散(ししんさん・第84回)
 巧姐が驚風(小児性脳膜炎)になった時に調合された薬。これには牛黄(病牛の腸にできる結石状のもの)というのが使われます。
 賈環が巧姐の見舞いに現れ、「牛黄とはどんなもんか見せてくださいよ」と言って、誤って薬鍋をひっくり返してしまいました。大激怒した熙鳳は「あんたとは孫の代まで仇同士だよ!」と怒鳴りつけます。

十香返魂丹・宝丹(第91回)
 「十香返魂丹(じっこうはんごんたん)」は宝釵が熱を出した時に、煕鳳が届けてよこした薬で「紅楼夢鑑賞辞典」によれば、痰厥(痰が詰まって意識が昏迷する症状)や風邪、神志不清(気が遠くなる状態)の薬。「宝丹」は王夫人が届けてよこした解熱剤。

(3)アクセサリー
脊苓香念珠(せきれいこうねんじゅ・第15回)
 香木で作った数珠。北静郡王が陛下から賜った数珠で、宝玉に初対面の引き出物として進呈しました。のちに宝玉はこれを黛玉に贈ろうとしますが、黛玉は「臭い男の持っていた物など欲しくありません」と言って投げ捨てます(そんな…)。
 「紅楼夢鑑賞辞典」によれば、「脊苓」は「脊令」と同音で、兄弟の情誼を表す言葉(『詩経』に出てくるそうです)であり、「香念珠」は雍正帝を指す(康煕61年に康煕帝が雍正に念珠を賜ったことから)そうです。つまり、兄弟を粛正して帝位に就いた雍正帝を風刺したもので、黛玉がこれを拒絶したことは、皇権に対する大胆な蔑視であるとしています。

紅麝の串(こうじゃのうでわ・第28回)
 元春妃が宝玉と宝釵らに端午の節句の祝い物として賜った麝香煉りの数珠状の赤い腕輪。宝釵に腕輪を見せてくれと頼んだ宝玉でしたが、彼は宝釵が腕輪を外す様を眺めるうち、ぼうっと彼女の美しさに見取れていました。それを見た黛玉が宝玉にハンカチを投げつけます(こう書くと黛玉が嫉妬したような印象があるなぁ…)。

蝦鬚鐲(かしゅたく・第52回)
 平児の腕輪。蟹を食べる宴が開かれた時に、平児がちょっと外して置いたのを墜児(宝玉の侍女見習)が盗み出しました。宋婆さんが見つけて熙鳳の所へ報告に来ます(幸い熙鳳が不在で平児が取り次ぎました)。
 これを盗み聞いた宝玉から晴雯に話が伝わり、カッとなった晴雯は墜児を屋敷から追い出してしまいます。

纍絲金鳳(るいしきんぽう・第73回)
 真珠を連ねた迎春の釵(かんざし)。乳母の王婆さんがバクチの質種にかすめ取ったことが分かりました。折から王婆さんがバクチの大胴元として摘発され、罰を受けることになり、息子嫁が迎春に取りなしを頼みに来ます。
 「まずは纍金鳳を返してからの話にしましょうよ」と言い切る繍橘(これは正論)に対し、「どこだってうまいことをやってない乳母はいないわよ。私たちだけが悪いっていうの?」と開き直る王住児の女房(おいおい)。

繍春嚢(しゅうしゅんのう・第73・74回)
 築山の裏手で馬鹿姉やが拾った五色の縫取りを施した春画の香袋。邢夫人から王夫人に渡り、彼女は熙鳳に嫌疑をかけますが、熙鳳は潔白を証言しました。この犯人をつきとめるために大観園内の大抄検が行われることになります。実は司棋が持ち込んだものでした。
◯アクセサリーじゃないですけど、便宜上ここに入れました。

(4)その他
護官符(第4回)
 省内の豪族高官などの顔役連中の姓名を記した書抜き。その家に関する言い伝え、先祖の爵位、分派の順序まで細かに書き記してあります。各省ごとにあるようです。
 雨村が見た応天府のものには賈家(栄・寧)、史家、薛家、王家について記されていました。

玉簪花棒(ぎょくしんかぼう・第44回)
 紫茉莉花の種子を粉にひき、香料を混ぜてこしらえた白粉(おしろい)。平児が怡紅院に来た時、宝玉が(自分の誠意の証として)彼女に渡しました。一緒に渡した紅は、しぼった油を澄ませておりを取り、化粧水を配合して蒸留したものとのこと。

慧紋(けいもん・第53回)
 姑蘇の女子、慧娘の作で屏風の上に花と詩句を縫い取ったもの。その風雅なデザインと草書体の見事さから天下に名声が知れ渡っていましたが、彼女がその技術を売り物にする気がなかった上に、18歳で夭折したことから、所有する者はまれであるといいます。
 賈邸でも三点あるばかりでしたが、宮中に二点献上したので、史太君は残る一点を非常に珍重していました。宗祠の祭で使われています。

大観園の図(第82回)
 もともとは劉婆さんが「この園を絵に描いてくださる人はいませんでしょうか」と言ったのを受けて、史太君が惜春に描くよう命じたもの(第40回)。その後の経過をたどってみると
◯園だけ描く予定だったのに、「人間もそっくり描くように」と史太君が命じました。宝釵が必要な材料を提言し(なんでこんなに詳しい?)、惜春は詩会に1年の休みをもらって描き始めます(第42回)。
◯姉妹たちが香菱を連れて絵を見に来ると、三分かたできたところでした(第48回)。
◯史太君が絵を見に来て「暮れまでに描いておくれ」と言います。そして「琴ちゃん(宝琴)と女の子と梅の花を急いで描き加えなさい」との注文に困り果てる惜春(第50回)。
◯絵が完成し、湘雲と探春が絵の品評をしています(第82回)。
…こうして見ると史太君のわがままに惜春が振り回されているような気がするのは私だけでしょうか?(そして出来た絵はその後どうなったのだろう?)

漢宮春暁・置き時計・母珠・鮫綃帳(第92回)
 馮紫英が栄国邸に売りに来た舶来の品。4つで銀子2万両とのことでしたが、賈家にはそんな金銭的余裕はありませんでした。
 「漢宮春暁」は24枚物の屏風で、総紫壇に彫り物を施したもの。宮女の装いをした女子が1枚に50、60人描かれています。
 「置時計」は高さ三尺余りのからくり時計。時刻になると牌を持った童が現れ、10個の人形が音楽を奏でるというもの。
 「母珠」は竜眼くらいの珠で、小さなたくさんの珠を盆にあけ、母珠を真ん中に置くと小珠がみんな母珠にくっついてしまいます(磁石でしょうね)。
 「鮫綃帳」は鮫糸で織った藍色の紗。たたんだ時はちっぽけなのに、広げると余程大きな部屋でないと張りきれない大きさになります(でもただの蚊帳)。

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