紅楼夢名場面集


赤字は宝玉・黛玉・宝釵にまつわる場面、青字はその他を表します。
(9)第81~90回
黛玉、悪夢を見る(第82・83回)
経済日報出版社「紅楼夢連環画」より
 黛玉のところに熙鳳、王夫人らがやってきて言いました。「林の叔父様(如海)が賈雨村様に媒酌をお頼みになり、あなたをお嫁にやられることになりました」。
 びっくりした黛玉、史太君にすがって「私は死んでも江南に参りません。こちらで召使いとなって暮らしてもかまいませんから置いてください」。ところが史太君は「今更手遅れだよ。女はいつかは嫁に行かねばならないのだから」とすげない返事。
 そこへ宝玉が現れ、にこやかに「おめでとう!」と言うではありませんか。焦ってなじる黛玉に向かって宝玉は言います。「あなたは私と縁組ができていたから屋敷にいらしたんでしょ? 行きたくないならいればいい」。そして「私の言葉が信じられないなら、この胸のうちをご覧なさい」と言うや、小刀で胸をかっさばいて何かを探し始めます。仰天した黛玉は狂ったように泣きわめき、宝玉は「心がなくなってしまった。もう生きてはいられない」と言ってひっくり返りました。
 黛玉ははっとして目が覚めました…なんとそれは一場の夢。翌朝、紫鵑は襲人から、宝玉が「心臓が痛い! 刀で胸をたち割られるようだ」と一晩大騒ぎしたことを告げられます。

史太君、宝玉と宝釵の婚儀を取り決める(第84回)
経済日報出版社「紅楼夢連環画」より
 熙鳳は史太君に言いました。「宝玉さんの縁組なら、天のお手で結ばれた良縁があるではないですか」。続けて「一つは宝玉、一つは金の錠前、どうしてお忘れです?」。 史太君はこれを聞いて、なるほどとうなづきます。王夫人を薛未亡人の元へ遣わしてこれを伝えますが、薛蟠の逮捕という大騒動のために棚上げになります。しかし、この日より宝釵が公の場に出ることはなくなりました(結婚前は相手方の家族に会わないのがしきたりだったそうです)。
 のちに、黛玉の恋患いを知った時(第90回)も史太君は言いました。「黛玉を宝玉に娶せたくないのも、あの偏屈なところが気がかりなればこそ。身体も弱く、長生きできるたちではなさそうだ。宝釵ちゃんだけが似合いというものだろうか」。

薛蟠、人を殺して逮捕される(第85回~)
中央公論社「画本紅楼夢」より
 黛玉の誕生祝いに参席していた薛蝌と薛未亡人の元へ、薛家の者が注進に駆けつけました。「お家に大事件が出来しました。早くお戻りください」。聞けば、薛蟠が太平県で人殺しをしてしまったとのこと。ビックリした薛未亡人は、すぐに薛蝌を現地に派遣し、情状酌量を求めて運動させます。
 子細はこうでした。妻に手を焼いて旅に出た薛蟠は、たまたま蒋玉函と行き会いました。酒を酌み交わしていたところ、給仕が玉函に色目を使うのを見て薛蟠はカチンときます。翌日も別の者と酒を飲みにいったのですが、昨日の件もあって給仕の対応に腹を立て、顔めがけて杯を投げつけたところ、当たり所が悪く、その給仕は死んでしまったのでした。
 裁判は薛蟠に不利に動き、薛未亡人は莫大な金を薛蝌に渡して運動をさせたものの、全て上訴の際に棄却されていきます

黛玉、噂を信じて食を絶つ(第89~90回)
中央公論社「画本紅楼夢」より
 雪雁が小声で紫鵑に打ち明けます。「宝玉様の婚約が整ったそうですよ」。ビックリした紫鵑が詳細を尋ねると、雪雁は「侍書さんから聞いたんですけど、王という方(王爾調)の取り持ちで一度でまとまったとか」。
 それを盗み聞いてしまった黛玉は大ショック、「今日からこの体を日一日と粗末にしていこう」と死ぬ決意をします。かくして、半月後には粥をもすすれない状態になり、とうとう絶食を始めました。望みは絶えたと諦めた紫鵑は、史太君たちを呼びに行きます。
 ところがその時、侍書が黛玉の見舞いに訪れました。黛玉はもう人事不省で知られる気遣いはあるまい、と思った雪雁は、先日の件の真偽を問います。すると侍書、「そうあっさり決まるもんですか! ご隠居様にはとうから目星をつけている方がいて、その方はこちらの園へおいでとのこと。どうしても親戚同士の結婚をまとめたいとの意向を持っていらっしゃるそうですよ」。
 聞いた雪雁は呆然。ところが当の黛玉はこれを全て聞いていました。

金桂、薛蝌に魔手を伸ばす(第90・91回)
経済日報出版社「紅楼夢連環画」より
 薛蝌が岫烟の不遇を嘆じていた時、宝蟾が蓋物を持って彼の部屋を訪れました、「金桂からの薛蟠の件でご面倒をおかけしているお礼代わり」とのこと。ところが宝蟾が流し目をくれたり、障子から息を吹き込んだり、恨み言を言うのを聞いて疑念を起こします。
 折から金桂は義従弟の薛蝌を狙っていました。一方の宝蟾も、先にものにしてしまおうと、先程の振舞いに出たのでした。薛蝌が乗ってこないのを見て、宝蟾は金桂に何やら知恵を授けます。

(10)第91~100回
宝玉、通霊玉を失う(第94~96回)
経済日報出版社「紅楼夢連環画」より
 史太君が園に来ると聞いた宝玉は、慌てて着替えて迎えに出ました。通霊宝玉も下げずにいました。襲人が気づいて尋ねると、「オンドルの上に置いたはずだ」と宝玉は言い、襲人らは必死になって探しますが見つかりません。駆けつけた探春は人を使って園内のすみずみまで探しますが、全く行方不明の有様。
「腰元たちや婆やたちの着物を脱がせて検めてみましょう」と言う李紈に探春は怒り、「あんなくだらぬ手合いのまねをしてはいけません。環ちゃんが嫌がらせをしているのですわ」。そこで平児が賈環に尋ねてみますが、彼も知らない様子です(賈環は怒って去り、趙氏が例によって怒鳴り込んでくるというお約束)。
 襲人は一睡もせずに泣き明かし、黛玉は「私のことで金玉の縁がぶち壊れたのかも知れないわ」と逆に喜んでいました。
 その後、宝玉は痴呆気味の症状を呈するようになり、王夫人は全てを史太君に打ち明けました。かくして、大々的に懸賞の貼り札が出されると、拾って届けた者に一万両くれるとあって、まがい物を作る輩も現れます。

元春妃、薨去す(第95回)
上海古籍出版社「戴敦邦新絵全本紅楼夢」より
 ある日賈政が涙ながらに入ってきて王夫人に言いました。「貴妃さまが急病にかかられ、痰がつまってもはや医療の力の及ぶところにないそうだ」。
 史太君と王夫人は慌てて参内します。二人が見舞うと、貴妃は痰がつまって口から涎をながし、物も言えず、涙も枯れてしまった様子。貴妃の顔色が変わってきたのを見た太監は、二人を外宮に連れ出します。やがて貴妃薨去の下達がありました。
 かねて街の者が噂していたとおり、卯年の寅の月のことでした。

史太君、宝玉と宝釵の婚儀を取り決める2(第96回)
上海古籍出版社「戴敦邦新絵全本紅楼夢」より
 通霊宝玉を失って白痴状態になった宝玉を救うために、史太君は宝玉と宝釵の婚儀を行うことを決めます。これをこっそり聞いた襲人は考えます。「若様の頭には林の姫様のことしかない。ここで若様に向かって宝釵様をお嫁にもらわれると打ち明けたら、命を縮める結果になるのでは?」 そこで襲人は王夫人を訪ね、跪いて、今まで宝玉が黛玉に見せた有様を隠さず申し述べました。
 王夫人はこれを史太君に報告します。溜息をつく史太君。一方の熙鳳はとある計略を考え出しました。そして言うには「まず黛ちゃんを嫁に迎えることになった、と宝玉さんに言い立てます。反応がなければよし、もし嬉しそうな顔を見せたなら…」。そして王夫人の耳元でごにょごにょごにょ…。さて「囮財布の手」とはいかに?

黛玉、機密を知る(第96・97回)
上海古籍出版社「戴敦邦新絵全本紅楼夢」より
 その日、黛玉が園内を歩いていると一人の侍女見習(馬鹿姉や)が泣いているのに出くわします。黛玉がわけを尋ねると、その馬鹿姉や、「私が一言口走っただけで珍珠姉様にぶたれたのです」。黛玉は更に「何を口走ったのよ?」と尋ねます(尋ねなきゃよかったのに…)と、馬鹿姉やは言ってしまいました。
「うちの宝の若様が薛のお嬢さまをお嫁にもらいになるということですわ」。

 さて、紫鵑が黛玉を探していると、顔面蒼白の当人がふらりふらりと歩いてきました。紫鵑は黛玉に手を貸して宝玉の元を訪ねます。顔を見合わせて馬鹿笑いをする宝玉と黛玉。出しぬけに黛玉は言いました。「あなたの病気の原因は何ですか?」 宝玉は答えます。「黛さんが原因ですよ」。
 そして黛玉は飛ぶように瀟湘館に戻ると、喀血して倒れました。

黛玉、涙尽きて死ぬ(第97・98回)
上海古籍出版社「戴敦邦新絵全本紅楼夢」より
 黛玉の容態は急激に悪化し、息も絶え絶えの状態になりました。これはいけないと見た紫鵑は、史太君のもとへ注進に馳せつけます。ところが正房も宝玉の部屋もガランとしているのに呆然とする紫鵑。墨雨(宝玉の書童)から「今晩、別室で式を挙げる」と聞いた紫鵑は歯ぎしりして悔しがり、涙をこぼしながら瀟湘館に戻ります。
 見れば黛玉は高熱で真っ赤になっていました。紫鵑は慌てて李紈を呼びます。李紈が駆けつけた時には、かの黛玉はもはや口も利けねば、涙も最後の一滴まで枯れ果てたあとでした。
 かくしてその晩、黛玉は「宝玉さん、よくも…」と叫び残し、探春・李紈・紫鵑に看取られて息を引き取りました。ちょうど宝玉と宝釵の婚儀が行われた時刻でした。

宝玉、宝釵と結婚する(第97・98回)
経済日報出版社「紅楼夢連環画」より
 熙鳳の策略で、「黛さんをお嫁にもらってくださるのよ」と言われてご満悦の宝玉、幾分正気に戻り、体の方も目立ってしゃんとしてきました。  そして運命の婚儀の日。新婦のかずきを取った宝玉は、彼女が宝釵であるのを見て呆然とします。しかも先程まで新婦についていた雪雁が、鶯児に入れ替わっています。
 襲人に「お嫁に迎えられたのは宝釵さまです」と言い切られ、頭の中がこんがらがった宝玉は、ついに「黛さんに会いに行く!」と言ってごね始めます。やむなく一同は、安息香を焚いて宝玉を寝かしつけました。
 翌日、賈政の見送りを終えると宝玉の病状は急激に悪化します。宝釵は意を決して宝玉に伝えました。「黛さんはもうこの世を去られましたのよ」。

(11)第101~110回
大観園のバケモノ騒動(第101・102回)
上海古籍出版社「戴敦邦新絵全本紅楼夢」より
 姉妹たちが一人また一人と去り、めっきり寂しくなった大観園に幽霊が出るとの噂が流れました。老女たちは怖がって園内の管理もほっぽりだすようになります。
 熙鳳は実際に秦可卿の幽霊に会い、尤氏は物に憑かれて暴れ回り、賈蓉・賈珍も次々に病に倒れます。勇んで園に様子を探りに入った賈赦も、付き添った小者が「バケモノだ~!」と言ってひっくり返ったのを見て、真に受ける始末。
 やむなく賈赦は道士団を呼び、盛大に妖魔退散の法要が行われます。

金桂、誤って毒を飲んで死ぬ(第103回)
上海古籍出版社「戴敦邦新絵全本紅楼夢」より
 王夫人の元に突然薛夫人からの使いがやってきました。ところがその老女、言うことが滅茶苦茶で全然わかりません。賈璉が出向いたところ、金桂が毒を飲んで死んだことがわかりました。事前に食した吸い物の中に砒素が入っていたようです。
 同部屋で寝起きしていた香菱が軟禁され、彼女は死なんばかりに泣きいります。宝釵は「吸い物を作ったのは宝蟾でしょう?なら宝蟾を疑うべきでしょう」と言って、宝蟾に縄をかけます。わめきちらす宝蟾。
 賈璉が役場に報告に出かけた後、金桂の母親と義弟(夏三)がわめきながら駆け込んできました。詰め寄る母親を薛未亡人が押し返したのを見て、「よくも母さんに手をかけおったな!」と叫び、椅子を振り上げて暴れ出す夏三。

栄・寧国邸の家産没収(第105・106回)
経済日報出版社「紅楼夢連環画」より
 賈政が江西糧道の任務を弾劾されて帰郷し、邸で宴を開いていた折、突然趙長官と西平郡王が乗り込んできます。「勅旨を奉じ、賈赦の家産検めにまいった」。
 趙長官の命令で差し押えが始まり、奥は大騒ぎとなります。その時、北静郡王が沙汰を受けて遣わされ、長官に賈赦を連れてさっさと引き上げるよう申し渡しました。西平郡王は趙長官を恨み、「王が勅旨を伝達にお越しくださらなかったら、こちらは大変な目にあっていましたよ」と申されます。
 結局、賈珍と賈赦は罪をおかした角で逮捕(世襲職は剥奪)され、寧国邸と賈赦分の財産は官に没収されることになりました。賈璉の部屋は最初に飛び込んだ長官の部下たちに荒らされ、熙鳳が貯め込んでいた巨万の財宝が跡形もなく持ち去られたばかりか、高利貸ししていた証文が証拠品として押収されることになりました。

宝玉、黛玉を偲ぶ(第108・109回)
 宝釵の誕生祝を抜け出した宝玉は、引き留める襲人を制して大観園に入りました。老女たちに「こちらでは林のお姫様が亡くなったあと、いつも泣き声がするんです」と聞かされた宝玉、ぽたぽた涙を流して言います。
「黛さん、あなたを殺したのは私だ! でも私が裏切ったのではないのですよ」。襲人は慌てて宝玉を園から引っぱり出しました。
 その晩、「私が園に出かけたので、黛さんは夢の中で会ってくれるかもしれないぞ」と考えた宝玉は、表の間で寝ることにします。ところが爆睡して夢も何も見ずじまい。奥の宝釵はまんじりともせずに一夜を送りました。

迎春、孫勝祖にいびり殺される(第108・109回)
 父・賈赦の一存で孫家に嫁いだ迎春でしたが、夫の紹祖はたちまち本性をむき出し、迎春を虐待し始めます。冬でも薄着しか着せず、食事もろくにあたえず、従ってきた侍女を追い出します。
 賈家の家産没収の折にも「お前の実家は貧乏神を背負いこんでいるから、お前の体に染み込んだら事だ」と言って里帰りを許さない孫紹祖。賈政が世襲職を継いでようやく帰省を許された迎春でしたが、数日後にはさっさと帰ってくるよう催促されます。「再びお会いする機会はないでしょう」と言って迎春はどっと涙を流しました。
 その後、一悶着あって一晩泣き明かした迎春は痰が詰まるまでになりますが、夫は医者も呼びません。その翌日、迎春はあっけなく亡くなります。嫁いでわずか一年有余でした。

鴛鴦、史太君に殉じる(第110・111回)
中国電影出版社「児童版彩図紅楼夢」より
 胃のもたれから大病を患った史太君は、家族の見守る中、83歳で亡くなります。鴛鴦は柩の前で泣きながら考えました。「私たちみたいな人間は誰が妾として部屋に入れられ、誰が小者に連れ添わされるかわからない。それなら死んでしまったほうがまだよい」。そう決めてぼんやり歩いていると、戸口で誰かが首をくくろうとしている様子。鴛鴦が近づくと、その姿はかき消えました。
 「そうだあれは東屋敷の蓉様の前の奥様(可卿)。私に死に方を教えてくれたに違いない」。そう合点すると鴛鴦は梁に腰帯をかけ、首を差し入れました。

(12)第111~120回
妙玉、強盗に拐かされる(第111・112回)
中国電影出版社「児童版彩図紅楼夢」より
 史太君の葬送で屋敷の男連中が留守にしている隙をつき、賊の一味が何三(周瑞の義子)の手引きで栄国邸に強盗に押し入ります。その晩、妙玉はたまたま惜春を見舞いに訪れ、碁を打っていました。惜春の部屋をのぞき込んだ賊は、妙玉の美貌に淫心を起こして踏み込もうとしますが、包勇に打ちかかられて退却します。
 ところがその賊は妙玉を諦め切れず、再び櫳翠庵に忍び込んで悶香を焚きます。賊は動けなくなった妙玉を背負い、城門を抜け出して、他の一味と共に落ちのびていきました。

熙鳳、巧姐を託して逝く(第113・114回)
経済日報出版社「紅楼夢連環画」より
 気丈だった熙鳳も物語後半は病に伏せることが多くなり、栄国邸に強盗が入った後は起きあがることも出来なくなりました。周囲ももはや本復は難しいものと見ています。
 尤二姐の亡霊や物の怪にうなされる毎日。そんな時、劉婆さんが史太君の悲報を聞いて悔やみに訪れます。かつて幽鬼の類を鼻で笑っていた熙鳳が、劉婆さんが願掛けをしてくれることに最後の望みを託します。熙鳳はまた「巧姐もあなたに預けます」と劉婆さんに述べます。かつて平児にも「私の亡きあと、巧姐を育ててほしい」と言っていました(第106回)。それが間もなく現実のものとなります。
 その晩、熙鳳死去。享年26歳でした。

宝玉、再び太虚幻境を訪れる(第116回)
経済日報出版社「紅楼夢連環画」より
 かさ頭の僧から通霊宝玉を受け取って正気に戻った宝玉でしたが、麝月の一言を聞いてバッタリ意識を失います。いつしか宝玉の霊魂は僧について幻境の前まで来ていました。
 宝玉は再び金陵十二釵を読みます。ところが、幻境の仙女たち(鴛鴦・熙鳳・晴雯・可卿・迎春・尤三姐・黛玉)は宝玉を冷たくあしらった上、妖怪変化に姿を変えて宝玉を襲いました。かさ頭の僧はそれを祓った後、「俗世の情縁というものは、ああした魔障に過ぎぬのだ」と諭して蘇生させます。
 数日の後、再び現れた僧との問答で宝玉はついに自分の素性を看破し、俗縁を断って出家することを決意しました。

巧姐、外藩の王に売られそうになる(第118・119回)
中央公論社「画本紅楼夢」より
 外藩の王が側妾を買い入れようとしているのを聞き込んだ邢徳全・王仁・賈環・賈芸は、巧姐を嫁がせて一儲けしようと企みます。折から賈璉は賈赦の見舞いに出かけて留守にしており、邢夫人を丸め込んで3日後に輿入れというところまでこぎつけました。
 これを聞いて驚く巧姐と平児。そこへひょっこり現れた劉婆さん、「私どもの村へいらせられませ」と提案します。さっそく車を手配し、巧姐を青児(劉婆さんの孫娘)に扮させて乗せます。平児もこれを送り出すふりをして車に飛び乗り、栄国邸を脱出して風のように走り去りました。

宝玉、受験後に失踪(第119・120回)
経済日報出版社「紅楼夢連環画」より
 科挙受験に出向くにあたり、宝玉と賈蘭は奥に挨拶にあがりました。宝玉は王夫人と李紈に向かって「必ず及第します」と述べると、宝釵の前に進み出て、丁寧に揖礼をします。一同はどうしてそんなまねをするのか、と奇異の念を覚えます。その時、宝釵の目から涙がどっと溢れ出しました(これが二人の今生の別れになりました)。

 宝玉は受験後に行方不明となりました。一方、史太君の柩を守って金陵まで出かけていた賈政は、毘陵という所まで来た時、雪の中で自分に向かって拝礼をしている者の姿を見ます。坊主頭に裸足、猩猩緋のケットのマントに身を包んでいます。
「宝玉ではないか?」と問う賈政に、嬉しそうな悲しそうな表情を返す宝玉。
「俗縁は終わったのだ、さあ参ろう」と僧と道士とに引っ立てられるようにして背を向ける宝玉。賈政は必死に後を追いますが、彼ら3人の姿は煙のように消えてしまいました。

襲人、蒋玉函に嫁ぐ(第119・120回)
 宝玉の失踪後、「部屋の者全てに暇を取らせましょう」との話を盗み聞いた襲人は死なんばかりに泣きいって昏倒します。親戚の取り持ちで蒋家との縁談がまとまると、自害することばかりを考えて泣きどおしでしたが、周囲の好意を無にできず、死ぬことができぬまま蒋家に嫁ぎました。
 衣装櫃に緋色の腰帯を見て、彼女が襲人だと知った婿殿は、かつて宝玉と交換した腰帯を襲人に見せます。彼こそは宝玉と親交のあった蒋玉函でした。ここに襲人は前世からの因縁を信じるに至り、心事を玉函に打ち明けます。