蘇州十里街に甄士隠という田舎紳士が住んでおり、一人娘の英蓮を可愛いがっていました。
ある年の元宵節、英蓮は家人の霍啓に連れられて灯籠見物に出かけます。ところが、霍啓が小便をしている間に英蓮がいなくなり、泡を食った霍啓は一晩探したものの見つからず、そのまま逃げてしまいます。
それを聞いて泣き暮らす士隠夫婦。悪いことは重なるもので、隣の葫蘆廟から出火した家事で屋敷が全焼してしまい、身を寄せた岳父からは小言を言われる毎日…ある日士隠は通りすがりの道士について出奔してしまいました。
かつて葫蘆廟には賈雨村という貧乏書生が寄宿しており、甄士隠と交際がありました。やがて彼は士隠の援助で上京し、見事に科挙に合格して官界に入ります。
これも縁でしょうか、昇進を重ねた雨村は甄士隠の岳父の住む地の府知事として赴任します(士隠はすでに出奔していました)。士隠の娘が行方不明になったことを聞いた雨村は「草の根分けても探し出しましょう」と請け負いますが、上司に弾劾され数年で罷免されてしまいます。
その後、諸国をぷらぷら旅していた折、揚州の巡塩御史・林如海より娘の家庭教師を頼まれます。彼女の名は林黛玉といいました。
次の年、林如海の妻が病気のため亡くなりました。林如海は黛玉を妻方の実家へ送ることを決め、折から復職のため上京しようとしていた賈雨村に同伴を頼みます。
如海の妻の実家とは、元勲の後裔で長安の大貴族である賈家・栄国邸。邸に到着した晩、黛玉は栄国邸の若君・賈宝玉と初めて顔を合わせます。見るなり黛玉ははっと驚き、「どうもどこかでお目にかかったような気がするわ」と疑います。宝玉も笑って言いました。「このお嬢さんならお会いしたことがありますよ」
戸部御用達の豪商の若主人・薛蟠は、秀女に応募する妹の薛宝釵を送り届けるため、都へ出立する用意をしていました。そこへ人さらいが器量よしの娘(香菱、実は甄英蓮)を売りにきますが、馮家への二重売りだったことが発覚。話がこじれて、薛蟠は小者に命じて馮淵(馮家の主人)を打ち殺してしまいます。幸い府知事に赴任した雨村の働きで収まりますが、薛蟠は人殺しなど屁とも思わず、母と妹と妾を連れて上京します。
薛未亡人は宝玉の母・王夫人の妹にあたり、誘いを受けて栄国邸内の梨香院に落ち着くことになりました。
賈政の助力で応天府の知事になった賈雨村ですが、就任して間もなく、薛蟠が起こした殺人事件の審理が持ち込まれます。原告の訴えを聞いた雨村は、下手人を見つけ出して厳罰を下してやる!と息巻きますが、傍らにいた門番に目配せしています。
この門番、実は葫蘆廟の元小僧であり、雨村に「護官符」なるものの写しを渡し、省内で幅を利かせている賈・史・王・薛の四家を立て、この件をうやむやに始末するよう進言します。
寧国邸の観梅宴に招かれた宝玉は、疲れを覚えて、秦可卿の部屋で昼寝をしていました。夢の中で宝玉は警幻仙姑に会い、彼女に導かれて太虚幻境を訪れます。警幻にせがんで薄命司に納められている「金陵十二釵正冊」という帳簿を紐解く宝玉でしたが、読んでもさっぱり分かりません。実は彼を取りまく女性たちの運命が記されていたのですが…
酒宴で披露された「紅楼夢十二曲」にもつまらなそうにしている宝玉を見て、ため息をつく警幻仙姑。
しかる後、宝玉は警幻によって肉欲の「淫」以外の「意淫(生まれつきの痴情)」の持ち主であることを啓示されます。
長安郊外に住んでいる農家の王狗児一家、その冬も越せそうにない貧困ぶりに喘いでいました。酒ばかりあおっている狗児に対して義母の劉婆さんが意見します。
「お前さんの爺さんは金陵の王家の一族に加えてもらったんじゃろ? あちらの2番目のお姫様は、いまじゃ栄国邸の2番目の殿様(賈政)の奥方様だそうだから、ご機嫌伺いに行ってみてはどうかいな?」。すると狗児、「じゃあ、婆さんに行ってもらおう」。仰天する劉婆さんですが、言い出しっぺは自分とあって、仕方なく引き受けます。
翌日、栄国邸を訪れた劉婆さん、顔見知りの周瑞の妻の世話で王熙鳳の御前へ上がります。劉婆さんは床に這いつくばってペコペコするばかり。
近頃、宝釵が家で養生していると聞いて、宝玉は見舞いに訪れました。宝釵はよい機会とばかり、通霊宝玉を見せてもらいます。鶯児が「お嬢様の首飾りの句と対になっていますのね」と言ったものだから、宝玉は見せてくれとせがみます。宝釵は仕方なく「かさ頭の坊様が、金の佩げ物に彫りつけておくように、とこの句をくれたんです。でなきゃ誰がこんなものを佩げておくもんですか」と言って首飾りを外して見せました。
寧国邸に遊びに出かけた煕鳳と宝玉は、秦可卿の義弟・秦鐘を紹介されます。宝玉と同い年で容貌すぐれた美少年。二人はたちまち意気投合し、一緒に賈家の家塾に通う算段をします。
さっそく家塾に通い始めた宝玉と秦鐘でしたが、香憐・玉愛と呼ばれる色っぽい塾生(男です!)と心を通わせあいます。ある日、塾生の金栄は秦鐘と香憐が二人になった現場を押さえ、二人が怪しきことをしていたと吹聴します。
たまたま賈代儒(家塾の塾長)は留守で、孫の賈瑞が監督をしていましたが、彼はあべこべに提訴した香憐を叱りつけます。
そこへ賈薔にたきつけられた茗烟(宝玉の書童)が怒鳴り込み、金栄をひっとらえてがなり立てます。誰ぞが硯を投げつけたのを皮切りに物の投げ合い・殴り合いが始まり、金栄と宝玉の書童たちは得物をふりまわして暴れ始めました。
秦可卿が病気になって床に伏せ、いろいろな医者に診てもらいますが一向に良くなる気配がありません。賈珍は馮紫英の旧師である張友士に診察をお願いすると、彼は可卿の症状を的確に言い当て、「まだ三分の見込みがある」として処方箋を書きました。
やがて寧国邸で賈敬の誕生祝が開かれた折、煕鳳と宝玉が可卿を見舞います。「この体では正月は越せないのではないかしら」という可卿の言葉に胸を突かれ、宝玉はぽろぽろと涙をこぼします。
賈瑞は賈敬の誕生祝の折に、憧れの熙鳳に接近することができました。色目を使う賈瑞に憤慨した熙鳳は、顔は仙女のような微笑みを見せながら、心では彼をぶっ殺す計画を練り始めていました。
手始めに「西側の穿堂で待っててくださる?」と彼を誘います。喜び勇んで駆けつけた賈瑞でしたが、門が閉められて一晩中寒風の中に置かれ、凍え死にそうになります。
続いて「裏手の路地の空き部屋で待ってくださる?」と彼を誘います。また喜んで駆けつけた賈瑞(彼はバカなのか?)は、引っ捕らえにきた賈蓉に抱きついてしまい、口外しない代わりに金を払う約束をされてしまいます。
あれやこれやで病気になった彼の元へ、足なえの道士がふらりと現れます。
足なえの道士は「裏面だけを3日照らせば病は本復しますぞ」と言って「風月宝鑑」なる鏡を賈瑞に手渡して去っていきました。
さっそく賈瑞が裏面を覗いてみると、髑髏(しゃれこうべ)がポツンと突っ立っているだけ。驚いた賈瑞は、道士を罵りながら鏡をひっくり返してみると、煕鳳が中から手招きしているではありませんか! 喜んだ賈瑞はふらふらとその中に入っていきます。
鏡を拾ったり落としたりを繰り返した末に動かなくなった賈瑞を見て、人々が慌てて駆け寄ってみると、すでに賈瑞は事切れていました。
ある夜のこと、うとうとと眠りについた煕鳳の夢枕に秦可卿が立ちました。
「叔母様には日頃よくしていただきましたので、お別れにまいりました。それからお願いがありまして」と可卿。「お願いって何?}と煕鳳が尋ねると、可卿は賈家の早晩の零落を予言し、後事に備えるよう申し伝えます。
煕鳳が詳しく尋ねようとしたその時、秦可卿の死を告げる雲板の音が邸内に響きわたりました。
亡くなった秦可卿の葬儀の手配で、寧国邸はてんやわんや。尤氏が持病で伏せっているため、賈珍は熙鳳に奥向きの采配を依頼しました。自分の手腕を見せつけてやりましょう、と揚々と寧国邸に乗り込む熙鳳。各々の受け持ちを決めさせ、時間に遅れた妻女に罪を当て、ビシビシと執り行います。水も漏らさぬ周到ぶりに周囲は感嘆するばかり。
やがて葬送の日を迎えました。鉄檻寺に柩を安置すると、熙鳳・宝玉・秦鐘の3人は水月庵に宿をとります。その夜、浄虚(水月庵の老尼)は熙鳳にとある相談をもちかけます。
水月庵で人目を忍んで智能を抱こうとした(宝玉の乱入で未遂に)り、郊外の風にあたって、秦鐘は風邪で寝込んでしまいました。智能は寺を抜け出して秦鐘を見舞いに訪れますが、秦業(秦鐘の父)は激怒して彼女を追い出します。秦業は秦鐘をしこたま打擲し、そのまま憤死してしまいます。これより秦鐘の病も悪化していきました。
ある日、秦鐘が危篤だと聞いた宝玉、慌てて彼の家へ駆けつけます。「私だ、宝玉だよ!」との言葉に秦鐘は息を吹き返し、彼に最後の言葉を伝えました。
元春が貴妃となって程なく、陛下が元春妃の省親を裁可されることになり、栄寧邸内に豪華絢爛な別園が造成されました。
賈政は門客たちを引き連れて、完成した園の検分に出かけますが、園の前に居合わせた宝玉にも同行を命じます。一同は、諸所の扁額や対聯を題して歩きますが、大いなる詩才を発揮する宝玉にまんざらでもない様子の賈政。しかし、正殿前の牌坊を見た宝玉は、どこかで見たことがある気がしてならず、はたと考え込みます。
別園からの帰り、宝玉は身につけていた佩げ物を残らず若党らにはぎ取られました。それを見た黛玉、「私の差し上げた巾着までくれてやったのね」とぷりぷりして、半分ほどできていた香袋にハサミを入れ、ずたずたに切り裂いてしまいます。
宝玉は懐から黛玉の巾着を取り出して「いつあなたの品を人にくれたりしました?」となじります。さらに「あなたは私に物をくれるのが嫌になったんでしょ? なら、この巾着もお返しします」と言って彼女の懐に押し込みます。涙を流しながら、その巾着にまでハサミを入れようとする黛玉。宝玉は慌てて詫びを入れます。
元宵節の早朝、元春妃を乗せた御輿が邸に到着しました。史太君の正室に入ると、貴妃は史太君・王夫人をかき抱き、三人ともむせび泣きます。貴妃はまた賈政に向かい、「農家の者であれば衣食は粗末でも天倫を全うできましょう。私たちは富貴を極めた身分とはいえ、離れ離れに生きねばならないのですね」と言って涙にくれます。しかし、宝玉が扁額を作ったと聞いて喜ばれ、別園に「大観園」の名を与えました。
寧国邸での芝居見物に飽きた宝玉は、茗烟をお供に、宿下がりした襲人を訪ねていきます。折から襲人は、母と兄に彼女を買い戻す算段を持ちかけられ、「死んでも戻りません」と涙ながらに訴えていたところでした。襲人は突然現れた宝玉にビックリしながらも、テキパキと彼の世話をします。それを見て「なるほど、これなら」と思い直す襲人の母と兄。
その晩、邸に戻った襲人はこれをネタに宝玉の気儘な行いを諫めようと考えました。「私は実家に戻ることに決めました」と告げる襲人に驚く宝玉。涙を浮かべて不貞寝する彼を見て、襲人はクスッと笑いながら言います。「でも私のいうことを守ってくれるんなら、私は出ていきませんわ」。宝玉はとたんににっこりして「どんなこと? 何でも守るよ」。