大姐(後の巧姐)が疱瘡にかかり、賈璉は外で別居生活を始めます(当時、子供が疱瘡になった時、両親が同室に暮らすのはタブーとの俗信があったそうです)。しかし、おとなしくなんかしているわけがなく、早速一人の女房(多姐)と寝てしまいます。
やがて大姐の病も癒え、賈璉は邸に戻りました。平児が荷物の整理をしていると、一束の黒髪が出てきました。ピンと来た平児、さっそく賈璉に向かって言います。「これは何でして?」。奪い取ろうともがく賈璉。そこへ熙鳳が現れ、「何か荷物が増えたりしてなかった?」と言うものだから、青くなった賈璉は平児に必死で目配せをします。平児はうまくゴマかしてくれました。
賈璉がスキを見て平児から髪の毛を奪い返します。怒る平児の姿にムラムラときた賈璉は彼女を抱き寄せようとしますが、平児はその手を払って庭に逃げました。
怒った湘雲は部屋に戻って帰り支度を始めます。「あなたが黛ちゃんの機嫌を損ねるのを心配したんですよぉ」となだめる宝玉に「どうせ私なんか、あの方のことを口にする資格はないですよ!」と言い捨てます。一方の黛玉も「どうして目配せなんかなさったのです? あの方が私の機嫌を損ねたからって、あなたに関係ないじゃないですか!」とお冠。
好意が裏目に出て二人の機嫌を損ねた宝玉、くさくさして部屋に戻ると筆をとり、悟りをひらいて一つの偈を書きました(翌朝、黛玉に簡単に論破されるんですけど)。
翌日、元春妃より灯謎が届けられ、姉妹達もめいめいにこしらえることになりました。元春の出題には、迎春・賈環以外は皆正解し、太監より褒美の品を賜ります。
さて、宮中より帰った賈政が史太君のもとに挨拶に訪れ、宴席に加わると、宝玉らはかしこまって黙りこくってしまいます。見かねた史太君は、賈政に姉妹達が作った灯謎を解くように言います。賈政が見れば、それらの答えは揃って縁起の悪いものばかり。彼女らの将来に不安を案じ、がっくりとうなだれるのでした。
元春妃の沙汰で、宝玉と姉妹たちは大観園に移りました。宝玉は怡紅院、黛玉は瀟湘館、宝釵は蘅蕪院、李紈は稲香村、迎春は綴錦閣、探春は秋爽斎、惜春は蓼風軒に入ります。
ある日、通俗小説を茗烟にもらって大喜びの宝玉、夢中で読んでいると、一陣の風が桃の花を散らしました。花びらを掃き集めて川に投げ入れんとする宝玉に、黛玉が声をかけます。
「花塚をこしらえましたので、花びらを掃き集めて土の中へ埋めてやりますの」
「じゃあ、本をしまって私もお手伝いしますね」「あら、何の本ですの?」…しまったぁ、と思う宝玉。
家塾から帰った賈環は、王夫人に言われて写経をしていました。そこへ王子騰の奥方の結婚祝に出かけていた宝玉が帰ってきます。酔いがさめずに、肩をたたいてくれる彩霞にちょっかいを出す宝玉。「少しは私の相手もしてよぉ(酔っぱらい親父モードON)」
カチンときた賈環は考えます。よし、熱油を浴びせて奴を盲にしてやろう。そこで、わざと手元が狂ったふりをして、燭台を宝玉めがけて押し倒しました。うわあああああ!!!!
左の頬にべったりと火ぶくれをつくって帰った宝玉を見て、襲人たちは大慌て。知らせを聞いて見舞いに駆けつけた黛玉でしたが、宝玉は顔を隠し、手を振って見せようとしません。
「痛い!頭が割れるようだ」と言って宝玉が暴れ始めました。周囲がオロオロしていると、今度は熙鳳が大観園に飛び込んできて、やたらめったらに刀を振りまわしています。二人の容態は急激に悪化し、3日もたつと昏睡状態に陥りました。
これより先、趙氏は馬道婆に「宝玉と熙鳳を消してくだされ」と依頼(こんな直言ではないですけど)、金を受け取った馬道婆は呪いの術をかけていたのでした。
死なんばかりに泣きいる一同とほくそ笑む趙氏。二人の命は風前の灯火かと思われたその時、かさ頭の僧とびっこの道士が邸に現れました。
黛玉が怡紅院の門を叩くと、「明日出直してよ」と侍女の声。黛玉はそこで「私よ、これでも開けないの?」と声をはりあげます。しかし侍女は「若様の言いつけなの。誰も入れるなって(実は晴雯が悪い)」。その時、院の扉が開き、宝玉・襲人らが大勢で宝釵を送って出てきました。これには呆然とする黛玉、しょんぼりとして瀟湘館に戻ります。
翌朝、昨日の悲しさを胸に、花塚で黛玉が「葬花の詩」を吟じていると、後ろの方ですすり泣く声が聞こえてきます。振り返るとそれは宝玉。逃げる黛玉をつかまえ、宝玉は言いました。「理由も分からず構いつけてくれないのでは、死んでも死に切れません」
そこで黛玉「ではなぜ昨夜、私が伺った時、女の子に門を開けさせなかったのです?」
それを聞いて宝玉は「へっ?」
芒種節の日を迎え、姉妹達は園内で賑やかに遊んでいましたが、一人黛玉の顔が見えません。宝釵が出迎えに瀟湘館へ向かうと、ちょうど宝玉が入っていくところ。そこで遠慮してその場を立ち去ろうとすると、前方に大きなつがいの蝶が舞っているのが目に入りました。茶目っ気を起こした宝釵は、扇子を取り出して打ちかかります。右に左にゆらゆらと舞う蝶を追って滴翠亭までやってくると、亭の中から誰やらのひそひそ話が聞こえてきました。
馮紫英(神武将軍の息子)の酒宴に招待されて宝玉が屋敷を訪れると、薛蟠・蒋玉函(俳優)・雲児(芸妓)らが待ち受けていました。
酒令で「花気襲人知昼暖」の句を詠んでしまった(つまり襲人の名を言った)玉函は宝玉に詫びます。二人は初対面だったことから宝玉は扇子の根付けを贈り、玉函は腰帯の交換を申し出ました。
その晩、襲人に「素敵な腰帯が手に入りましたこと。なら私の腰帯は返してくださいな」と言われた宝玉、交換したのが襲人の腰帯だったことを思い出します。「私の物までくれてやってしまったんですね」とため息をつく襲人。
翌朝、目を覚ました襲人は「ズボンのところをご覧」と宝玉に言われます。見ると、自分の腰に緋色の腰帯が巻かれていました。
「私など草木も同然の人間。宝釵さんみたいに金だの玉だのというお方とは一緒になりませんわ」。黛玉のこの言葉を聞いて宝玉は言いました。「私の心にそんな考えが浮かぼうものなら、死んでも恨みに思いません」。続けて「私の心にあるのは、お祖母様、父上と母上を別にすると四番目はあなたなのですよ」。
その後、史太君のところで宝玉は宝釵に会います。「お姉さまの香珠、私に拝ませてくださいな」と宝玉にせがまれ、腕輪を外しにかかる宝釵でしたが、宝玉は宝釵の白い腕に見とれて茫然としています。その様子をにやにやしながら見ていた黛玉、手にしたハンカチをぱっと宝玉の顔めがけて投げつけました。
元春妃より一家で清虚観に法要に参るよう勧められました。王夫人は史太君が乗り気なのを見て「遊びに行きたい者は一緒に出かけてよい」と告げたため、普段戸口を出れない侍女達はここぞとばかり、めいめいの主人を焚きつけて参加させます。
さて当日、一行が清虚観に到着し、煕鳳が史太君の元に駆けつけようとした時、一人の小道士が身を避けようとして煕鳳の胸元に飛び込んでしまいます。すかさず煕鳳の平手打ちを喰らった小道士は面食らい、籠を降りた女性たちの群に逃げ込もうとして大騒ぎとなります。
宝玉がそれを取って懐に入れますが、ふと黛玉の視線に気づきます。照れくさくなった宝玉が「帰ったらひもをつけてさげなさいよ」と言いますが、黛玉はぷいっとそっぽを向きました。
法要から帰って後、暑気あたりで寝込んだ黛玉を宝玉が見舞いました。黛玉が口をすべらします。「どうせ私は誰かさんみたいに、釣り合う物は持っていませんものね」。とたんに宝玉はやっきになって「私を呪うつもりですか? 昨日誓いを立てたばかりじゃないですか!」
黛玉はまた「昨日張のじいさまが縁談を持ち出されたので、似合いの良縁に邪魔が入りはせぬかと思って怒っているんでしょう」と言ってしまいます。聞くなり宝玉は通霊玉を床に叩きつけ、「こんながらくた、叩き壊すまでだ!」。
襲人と紫鵑が割って入ると、宝玉は怒りで眉をつり上げており、黛玉は悲しみが高じて飲んだばかりの薬湯を全部もどしてしまいました。襲人は宝玉をなだめて言います。「この玉にかけてある総にかけても、姫様といさかいなどしてはいけませんわ」。ところが黛玉はそれを聞くと玉をひったくりハサミでずたずたに総を切り刻んでしまいました。宝玉はそれを見て「どうせもう下げないんですから」と言い放ちます。
宝玉と黛玉はひどく後悔していました。数日後、ついに宝玉が黛玉に詫びを入れます。
「私たちがいさかいをしたように思われて、誰かが仲裁にでも来たら、お互いの関係が水くさいものになってしまいませんか?」
黛玉はこれを聞いて、やっぱり二人は親しい仲だったのだと気づいてわっと泣きだします。しかし口では
「私、あなたとは親しくしませんし、あなたも私は行ってしまったものと考えてください」
宝玉「どこへ行くのです?」。黛玉「生まれ故郷へ帰ります」。宝玉「私はお供をしましょう」。
黛玉「私が死んだ時には?」。宝玉「私は坊主になりましょう」
宝玉が王夫人の部屋へ入ると、金釧児が王夫人の足をこぶしで叩きながらこっくりしています。宝玉は笑いながら「明日にもあんたを貰い受けるよ。或いは母上がお起きになったらお願いしてもいい」とからかいます。すると金釧児、「『金の簪は井戸に落ちても持ち主に変わりはない』との文句を知りませんの? それより東の小庭で愛し合っている環様と彩雲さんを捕らえていらっしゃいな」
ところが、王夫人は目を覚ましていたのです。むくりと起きあがると、金釧児に平手打ちをくわせました。
「なんという下種の小女郎!」宝玉は慌てて逃げていきました(何て奴!)。
金釧児は泣く泣くお慈悲を乞いますが、王夫人は許さず、母親を呼びつけて身柄を預けました。間もなく、金釧児が井戸に身を投げたとの報告が入ります。
突然の雨でずぶ濡れになった宝玉は、一目散に怡紅院に駆け戻りました。ところが門を叩いても、騒ぐ声は聞こえど誰もでてきません。しばらくしてようやく門が開けられる様子、逆上した宝玉は門を開けた侍女を確かめもせず、思い切り蹴り上げました。そしてよくよく見ると…襲人ではありませんか!
その晩、襲人は床についてもうめき声をあげ、咳き込んで何かを吐きました。見れば血痰。青ざめる襲人と宝玉。
扇子を落とし折った晴雯を宝玉が咎めたことでいさかいとなります。仲介に入った襲人にも喰ってかかる晴雯に宝玉は激怒、「母上に申して暇を出させてやるんだ!」。これを聞いて「死んでも出ていきませんわ」と泣く晴雯。襲人らは土下座してこれを引き留めます。
その日の夕方、酒宴から帰った宝玉は、寝台に寝ていた晴雯に今朝のことをなじると共に、「扇子を引き裂きたいならすればいい、それこそ物を愛する心さ」と(訳の分からない理屈を)言います。とたんに晴雯、「私、引き裂くのが大好きですの」と言うと宝玉の扇子をビリビリッ、来合わせた麝月の扇子も奪い取ってビリビリ引き裂き、宝玉と二人で大笑い。
湘雲の政治談義を「黛さんはそんなくだらないことを口に出す人ではない」と一蹴する宝玉。これを門前で漏れ聞いた黛玉は、喜び驚き悲しみ嘆いて(うーん、説明が難しい)、涙を流しながら身を返しました。
支度をして飛び出してきた宝玉は、黛玉が泣きながら歩いているのを見て声をかけます。ところが黛玉はまた失言してしまいます。
「金とかをほったらかして麒麟とかに鞍替えとは、どうしたことですの?」
カチンときた宝玉は「またそんなことを言う。私を呪うつもりですか?」
黛玉が慌てて言いつくろい、宝玉の汗を拭ってやると、宝玉は出し抜けに言いました。
「安心なさったらいい。あなたは安心がゆかぬばかりに、そんな病気にかかられたのです」。
黛玉は言いたいことが言葉にならず、涙をながしながら立ち去りました。
呆然とする宝玉に襲人が駆け寄ります。すると宝玉、人の見極めもつかずに言いました。
「私だってあなたゆえに病気までしているのです。寝てもさめてもあなたのことが忘れられぬのですから」。襲人は腰を抜かさんばかりに驚きます。
賈政は、宝玉が俳優(玉函)と交際していたことを知って激怒しました。そこへ賈環が金釧児が井戸に身を投げたことを伝え、原因は宝玉が彼女を手籠にしようとしたからだ、と訴えます。とうとうキレた賈政、宝玉を縛り付けると自ら棍棒を取って、ありったけの力で何度も何度も打ち据えます。知らせを聞いた王夫人と史太君が止めに入った時には、宝玉は息も絶え絶えになっていました。
襲人らに介抱され、全身の激しい痛みに耐えながら横になっていた宝玉。ふと、自分を激しく揺さぶる者があります。目をあけると、大粒の涙をポロポロこぼしながら、自分を揺する黛玉の姿がありました。
宝釵が怡紅院を訪れると、昼寝をする宝玉のわきで襲人が針仕事をしていました。聞けば宝玉の腹掛けだそうで、オシドリの刺繍がされています。襲人は「すぐ戻りますのでかけていてください」と言って出ていき、宝釵は何気なく針を取ってその刺繍を続けてやります。と、突然宝玉が寝言を言い出し始めました。
「何が金玉縁だ! 私の頭には木石の姻縁しかないのだ!」
一方、黛玉と湘雲は連れだって、襲人の昇給のお祝いにやってきました。黛玉が院内を伺うと寝台で眠る宝玉のわきで宝釵が針仕事をしており、わきに蝿叩きが置いてあります。笑いを殺しながら、湘雲を手招きする黛玉。
探春から詩社結成の招請状を受け取り、宝玉は喜び勇んで秋爽斎へやってきました。黛玉の提案で全員が別号をつけることになり、宝玉は「怡紅公子」、黛玉は「瀟湘妃子」、宝釵は「蘅蕪君」、探春は「蕉下客」、迎春は「菱洲」、惜春は「藕榭」、李紈は「稲香老農」と決まります(翌日、湘雲が加わり「枕霞旧友」と号します)。
丁度、賈芸が白海棠を宝玉に届けてきたところだったので、これを題に詩を詠むことになります。結果、宝釵が第一等、黛玉が第二等となりました。「社の名前をつけなくてはね」と宝玉が言うと、探春が提案しました。
「手始めに詠んだのが海棠でしたから、そのまま「海棠社」と呼ぶことにしましょう」
翌日は湘雲を主人役に詩会が開かれることになり、その前段として、史太君らを招待して蟹を食べながらの木犀の花見が行われます(宝釵の提案)。
果たして史太君らは上機嫌。相伴をつとめる煕鳳は侍女達の元へ訪れ、鴛鴦をからかっていました。「うちの御前様(賈璉)はあんたに思し召しがおありですってさ」。横から琥珀が「鴛鴦さんが行ったら平児さんが焼き餅を焼いてしまうわ」。これを聞いた平児が手にした蟹を琥珀にこすりつけようと飛びかかると、手元が狂って煕鳳の顔に当たってしまいます。鴛鴦は「これこそ因果応報!」と叫び、一同大笑い。
劉婆さんが初物の野菜をもってご機嫌伺いにやってきました。史太君が「会ってみたい」と興味を示したため、劉婆さんは部屋に上がって話し相手を務めます(話がなくなっても適当に作ってしゃべっています)。
翌日、劉婆さんが気に入った史太君は、園内を案内してまわります。さて、朝食の段になると、熙鳳は「これはお屋敷のきまりですからね」と何やら言いくるめます。席につき、史太君が「さあ、召し上がれ」と言うと、劉婆さん、やおら立ち上がり素っ頓狂な声を張りあげました。
「劉の婆あ、劉の婆あ、牛にも負けぬ大飯食らい、豚にかぶりついてわき目もふらず」
一瞬固まった一同、飯も茶も吐き出して笑いころげます。