紅楼夢人物事典


1.太虚幻境

大荒山の無稽崖に捨てられた女媧(じょか)氏の石が、通霊宝玉として人間世界に生まれ落ち、後にこの人生遍歴を綴ったものが「紅楼夢」です。

茫茫大士
瘡頭(かさあたま)の僧。青埂峯(せいこうほう)の石を下界に送り込みました。渺渺真人と共に、現世と太虚幻境とを結ぶ役割を果たしていますが、彼は主に女性の救済を担当し、黛玉の出家を促したり、金の首飾りを宝釵に作らせています。宝玉には狂乱時に玉を清めたり、婚儀にあたって通霊玉を回避させました。やがて一切の因縁を悟らしめ、宝玉を幻境に帰しました。

渺渺真人
びっこの道士。主に男性の救済を担当し、甄士隠や柳湘蓮を出家させ(第1・66回)、賈瑞に風月宝鑑を貸し与えました(第12回)。

空空道人
青埂峯の大石の物語「石頭記」を書写し、世に問いました。物語の最初と最後に出てきます。

警幻仙姑
大虚幻境の主催者で、男女の仲をつかさどる仙女。第5回で宝玉を幻境に導いています。天機が漏れるのを恐れて宝玉が帳簿を見続けるのを制止しておきながら、「これでも悟れないの?」と宝玉をなじっているのが理解できません…

可卿(兼美)
警幻の妹。第5回で幻境を訪れた宝玉が夢の中で嫁にもらい、契りを交わしました。可卿が名前で兼美が幼な名。「兼美」とは黛玉と宝釵、二人の美を併せ持つ美しさを意味するそうです。

痴夢仙姑・鐘情大士・引愁金女・度恨菩提
警幻に仕える仙女達。第5回で幻境で絳珠草(黛玉)の生霊が遊びに来るのを待っていて、警幻の連れてきた宝玉を「不浄の者」扱いしています(つまり警幻は黛玉を連れてくるはずだったワケ)。

木居士・灰侍者
太虚幻境はずれの迷津を渡すいかだ使い。木居士が舵をとり、灰侍者が棹をさし、有縁の者だけを渡すといいます。

2.賈家・寧国邸

長安に在ります。譜代の勲功ある国威として寧国公が開いた名家でしたが、珍の代になって贅沢と酒色から家を傾けます。

賈 演
寧国公。栄国公の兄。故人。息子が4人いました。
第5回で栄・寧公の霊魂が警幻仙姑に「宝玉を正道に引き入れてやってくだされ」とお願いしています。

賈代化
賈演の長男で第二代寧国公。かつて京営節度使に任じられ、一等神威将軍を世襲しました。故人。第62回で1月生まれだったことが語られています。

賈 敷
賈代化の長男。8,9才で亡くなりました。

賈 敬
賈代化の次男。会試には及第しましたが、仕官はしなかったようです。道教に凝り固まり、賈珍に襲爵して郊外の玄真観で怪しげな修行をしていました。不老不死の丹薬を煉ることに熱中し、導気の術で生命を縮め(金丹を飲んだため)死亡します。
賈珍が道楽息子になったのは、この人が出家して誰もしつける人がいなかったためらしい。

賈 珍
賈敬の息子で族長。三品爵威烈将軍。息子嫁の秦可卿を姦して彼女を縊死させたり(第13回)、親の喪中に尤姉妹と戯れたり、ぐうたら連中を集めて賭場を開いたりと、やりたい放題。後に賭博や尤姉妹の件を摘発され、世襲職を剥奪され(第105回)、海疆に流されます。その後の大赦令で免罪となり、再び寧国三年公を襲爵しました。

 ▩佩鳳・偕鸞
賈珍の若い妾。寧国邸の財産差押え後も残されました。第106回で「残るは佩鳳・偕鸞の両名のみで一人の召使いもおらぬ有様」とあります。

 ▩文 花
賈珍の妾。寧国邸の財産と共にお上に没収されたんでしょうか?

尤 氏(40前後)
賈珍の妻。寧国邸の女主人として家計を切り盛りし、賈敬の葬儀を独力で取りしきる才覚を持っていました。一方で夫や息子の放蕩ぶりを苦々しく思っていますが、手をこまねいているだけです。尤二姐の件では熙鳳に痛罵され、惜春からは邸との絶交を宣言されました。

尤老母
尤氏の義母。賈敬葬儀の際、尤氏に留守居を頼まれ、娘二人と邸に入りました(これが不幸の始まり)。尤三姐の自害後間もなく死んだようです。

尤二姐
尤老母の娘。張華と許嫁でしたが、賈珍の画策で離縁させられ、賈璉と結婚します。賈璉は熙鳳にバレぬよう、彼女を屋敷の外に囲っていましたが、やがて発覚。熙鳳の策謀で邸に移されると、不当な扱いを受け、失望した二姐は地金を飲みこんで自害しました。

尤三姐
尤老母の娘。あばずれでしたが、柳湘蓮に思いを寄せて後、身を慎むようになります。しかし、結婚目前で湘蓮は突然の心変わり(私は宝玉が原因だと思う)、失望した三姐は剣で頸をはねて自害しました。

賈惜春(13) /金陵12釵・賈家四艶
賈敬の娘、賈珍の妹。早くに母を亡くし王夫人に育てられました。大観園では寥風軒に住みます。史太君の命で大観園の図を描きました。幼いながら(そんなに幼くないと思うのですが)強情潔癖、寧国邸の空気を嫌って邸との絶交を宣言します。邸に強盗が入った後、自らの運命を看破し、出家を願い出てついに許されました。その後は櫳翠庵に入って修行します。

賈 蓉(24)
賈珍の息子。国子監の学生。可卿の死に際して御前侍衛竜禁尉の株を買いました(1200両なり)。その後、賈璉と尤二姐の婚儀を取持ち、乗り込んできた熙鳳に悪態をつかれます。史太君の死後、賈政について金陵に行き、秦氏・熙鳳・黛玉らの埋葬をしました。

胡 氏
賈蓉の迎えた後妻。長安の大家の出で、父は以前京畿道の長官。

秦可卿(20前後) /金陵12釵
賈蓉の妻。義父・秦業が孤児院からもらい受けて育てられました。賈家一の器量良しで思いやり深く、屋敷内の人上下を問わずに慕われていました。天香楼で岳父・賈珍との淫事の現場を侍女に見られ、恥じて縊死します。
その後は幽霊となって大活躍(笑)。熙鳳に賈家の衰亡を暗示したり、鴛鴦に死に方を教えたりしています。

秦 業(70前後)
可卿の義父。営繕郎。夫人は早くに亡くなり、孤児院から男女一人づつをもらい育てます。男子は早逝、女子(可卿)は賈家に嫁ぎました。50歳を過ぎて秦鐘を授かり、将来を期待していましたが、秦鐘と智能の密会を知って腹を立て、持病が再発して死亡しました。

秦 鐘(15)
秦業の実子。字は鯨卿。宝玉の親友となり、その手づるで家塾入りしますが、家塾では香憐との密会を金栄に見つかり大騒動を招きます。その後、饅頭庵の智能と相愛の仲になりますが、寺を抜け出して見舞いに来た彼女が父に見つかり、秦鐘は父にしこたま打擲されます。可卿の葬送後体調をこわし、父の死後間もなく11才で病没しました。

賈 薔(21)
寧国邸嫡系の玄孫(賈珍の甥?)。父母を早く亡くして、幼少の頃賈珍に引き取られました。16歳の頃には賈珍の裁量で、邸を出て自分で門戸を構えて暮らしています。第9回では茗烟をたきつけて塾騒動を大きくした張本人(しかも騒動の前に早退する要領の良さ)。第16回では元春の省親を受け、姑蘇へ支度品の買い出しに出かけています。その後、賈璉留守中の取締りを任せられますが、賈芸と賭場を開帳しました。

3.賈家・栄国邸

(1)栄国公

長安に在ります。栄国公が開いた名門ですが、繁栄の影で家運は急速に傾いていきます。賈赦の逮捕後、世襲職は賈政に移りました。

賈 源
栄国公。故人。兄の寧国公とは二人兄弟でした。

賈代善
賈源の息子で第二代栄国公。故人。賈政を可愛がりながらもビシビシと躾けをしたことが述べられています。

史太君(賈母)(80)
賈代善の妻。ご隠居様・栄国太君・賈の後室等とも表記されます。1月21日生まれと8月3日生まれの両記載あり。賈家の最高権力者として君臨し、賈赦も賈政も頭が上がりません。胃のもたれから大病になり83才で死亡しました。
孫の宝玉を宝物のように可愛がっています。でも宝玉と宝釵の婚儀をまとめ、結果として黛玉を死なせてしまったのは、やっぱりこの人のせいなんですよね…
なお、原文では「賈母」ですが、岩波文庫(松枝先生)は「史太君」、平凡社版(伊藤先生)は「賈の後室」と訳しています。「太君」とは高級官吏の父母に贈られた封号です。
(2)賈赦の系列
賈 赦(60代前半?)
賈代善の長男。字は恩侯。一等将軍。鴛鴦を妾にしようとして史太君の怒りをかいます。賈雨村らと結託して行っていた不祥事を後に摘発され、家産を没収された上に世襲職を剥奪され(第105回)、台站に徴用されました。その後大赦令で免罪になっています。

嫣 紅(19)
賈赦の妾。賈赦が鴛鴦の代わりに800両の銀子を出して買い込んだ娘。

翠 雲
賈赦の妾。第74回で熙鳳のセリフに名があるのみ。

邢夫人(50代後半?)
賈赦の妻。史太君に取入る熙鳳への恨み大きく、迎春や岫烟にも思いやりがなく、家人にも粗野で信頼がありません。鴛鴦を妾にしたいと騒ぐ夫の言いなりになって動き(第47回)、賈環らに巧姐の結婚話を持ち込まれて承知しました(第118回)。
結果として熙鳳を殺したのは彼女でしょう。史太君の死後、葬儀費用を預かった彼女は財布の紐を締めあげ、金がなくて思うに動けないでいる熙鳳に向かって嫌味口を叩きます。逆上した熙鳳は血を吐いて倒れ、これが元で命を落とすことになりました。

邢徳全
邢夫人の弟。「馬鹿叔父」と呼ばれ、賭場の開かれる所には彼と王仁と薛蟠の姿があります(笑)。金遣いが荒く、邢夫人からも毛嫌いされています。賈璉の留守中に巧姐を外藩の王に売り飛ばそうと画策しました。

邢 忠
邢夫人の弟。酒ぐらい。暮らし向きは楽でなく、邢夫人を頼って家族と共に上京しました。第57回のみ

邢岫烟(16~17) /副12釵(?)
邢忠の娘。幼時蟠香寺の境内の借家に住み、妙玉に字を習いました。兄嫁と共に上京し、大観園で迎春と同居します。入邸後も邢夫人の扱いは粗雑で肩身が狭かったようです。薛蝌との婚儀は薛蟠の裁判中ゆえに簡素に行われましたが、その後は仲良く暮らしました。

賈 璉(28前後)
賈赦の長男。3月9日生。同知の株を持っています。熙鳳の尻に敷かれつつも女漁りに抜目がありません(そのたびに大騒動が起きています)。尤二姐との重婚によって熙鳳の怒りをかい、結果として尤二姐を死に至らしました。その後は四苦八苦しながら家政を取締まっています。賈赦の財産差押えの時、職を褫奪されました。

平 児(20前後?)
賈璉の妾(兼熙鳳の懐刀)。父母・兄弟はなく、熙鳳に小さい時から仕えていました。家政を公正に取締り、家人の深い信頼を得ます。熙鳳の死にあたって巧姐を委ねられ、妾に売られる危機を回避しました。後日、賈璉の正妻になりました。

秋 桐(20)
賈赦の侍女→賈璉の妾に。当初は賈璉の寵愛を受け、尤二姐に悪態をついています。最後は口うるささから、賈璉が実家の者に引き取らせました。

王熙鳳(22) /金陵12釵
賈璉の妻で王夫人の姪。9月2日生。幼名は鳳哥。縦横無尽の才をふるって幅をきかせ、史太君のお気に入りとなります。可卿の葬儀では手腕を発揮し、寧国邸の奥向きを取り締まりました。
一方で家政を厳しく取締り、公金で高利貸をするなど怨嗟の的になっていました。賈瑞・尤二姐を計略で殺す等、冷酷な面も見られます。後半は病に伏せることが多くなり、妄想の中で病死しました。

王 仁
熙鳳の兄。家族ごと江南に引き移り、その後再上京しています。熙鳳や巧姐とそりが合わず、賭場で酒を飲んではこき下ろしていました。熙鳳の死後、巧姐を外藩の王に売り飛ばそうと画策します。

賈巧姐(7~8) /金陵12釵
賈璉と熙鳳の娘。大姐児。7月7日生。劉婆さんが名付親でした。熙鳳の死後、王仁・邢徳全・賈環・賈芸らによって外藩の王に売られそうになりますが、平児と劉婆さんの働きで難を逃れました。劉婆さんの村の金持ち、周氏に嫁ぎました。

賈迎春(10代後半?) /金陵12釵・賈家四艶
賈赦の妾腹。生母は幼くして亡くなったようです。おとなしく口数少ない女性で、第72回以前に彼女のセリフを見つけるのは至難の業です(笑)。大観園では始め綴錦楼、後に紫菱洲に住みました。孫紹祖に嫁ぎますが、いびられて召使同然の扱いを受け、1年余りで病死します。

孫紹祖(30前)
長安に住んでいます。役職は指揮。博打好きでわがままな男で、迎春を娶って本性を表し、虐待してなぶり殺した極悪人。賈邸の財産差押えを聞いて借金返済の催促をよこしています。

賈 琮
作品中に設定は出てきませんが賈赦の次男(賈璉の弟)らしいです。
(3)賈政の系列
賈 政(58)
賈代善の次男。字は存周。幼少の頃から学問を好み、父(代善)のお気に入りだったそうです(宝玉と正反対)。父の死に際して、陛下の思し召しで主事になりました。その後工部員外郎→学政(地方に赴任)→郎中→江西省の糧道(下僚への監督不行届けで弾劾・降級)→工部員外郎→郎中に。
出来の悪い息子・宝玉の学問に厳しく当たっています。謹直な性格で宮務に忙しいためか、家政には疎く、経営手腕が全くない人で、結果的に周囲にふりまわされています。賈赦の受刑後、世襲職を継ぎました。

王夫人(50前後)
賈政の妻。3月1日生。賢明で慈悲深く信仰心の篤い女性です。現在は家政を見るのを疎んじ、一切を賈璉夫婦にまかせています。
しかし、結果として金釧児と晴雯を殺した人。第30回では宝玉に冗談で誘い文句をかけた金釧児に激怒し、第77回では王善保女房の讒言を信じて晴雯らを邸から追い出しました。

賈 珠
賈政の長男。14才で秀才の資格を得、20才前に李紈をめとります。将来を嘱望されていましたが惜しくも早逝しました。

李 紈 /金陵12釵
賈珠の妻。李守中の娘。字は宮裁。李家は代々学者の家柄だったらしいです。おとなしくて情け深く、家人からは「仏様」とあだ名されています。大観園では稲香村に住みます。熙鳳の病臥中は、探春と事務を執っていますが、事務的な能力はあまりないようです。将来は息子・賈蘭のお陰で富貴の身になりますが、束の間に死んでしまうらしいです。

李守中
李紈の父。金陵の名ある官吏でかつて国士監の祭酒を努めました。「女子は賢しゅうないがよい」との持論をもち、李紈には学問より針仕事に向かわせました。第4回のみ。

李未亡人
李紈の叔母で寡婦。李紈を頼って娘二人と共に上京し、稲香村に厄介になります。大観園で不祥事が続くのを見て、娘二人と外部の家に移りました(第94回)。

李 紋 /副12釵
李紈の従妹。第115回で王夫人が「(李紋は)もう婚約が整っております」と言っていますが嫁ぎ先は不明。この姉妹って結構名前が出てくる割に非常に印象が薄いです。

 ▩李 綺 /副12釵
李紈の従妹。王夫人が仲人役を務め、甄宝玉に嫁ぎました。

賈 蘭(13)
賈珠・李紈の息子。母の教えを守り、文武両道に励んでいます。挙試に130席で及第、後に出世して宰相になり、宝玉なき後の賈家を再興すると予言されています。

賈元春(30) /金陵12釵・賈家四艶
賈政の長女。1月1日生。選ばれて宮中に上がり、女史から貴妃(封号は賢徳妃)へと出世します。大観園は元春の里帰りのために建立されました。賈家の繁栄のシンボルでしたが、占い通り卯年の寅月に31才で痰厥のため薨去。賢淑貴妃と諡されました。

賈宝玉(15)
賈政の次男で紅楼夢の主人公。前世は大虚幻境の神瑛使者。口に通霊宝玉を含んで生まれた(これが青埂峯の石です)ことから宝玉の名がつけられました。幼い時から姉妹とばかり遊び、学問を批判して憚りませんでした。大観園では怡紅院に住みます。前世の因縁で林黛玉に想いを寄せますが、史太君の一存で薛宝釵と結婚します。夢に大虚幻境を訪ねて全ての因果を悟り、挙試受験後に失踪、幻境に帰りました。試験には第7席で及第し、「文妙真人」の道号を受けています。

賈探春(14) /金陵12釵・賈家四艶
賈政の次女。妾腹で宝玉の異母妹。大観園では秋爽斎に住みます。3月2日生。詩会を発案したのは彼女でした。人一倍賢明で家政の切回しに大いに才覚を発揮します。賈家の早晩の没落をも予見していたようです。生母の趙氏とそりが合わず、常にぶつかっています(ただし趙氏の方から)。賈政の口利きにより、遠く江南の周家へ嫁ぎました。

周 瓊
海門地方鎮守総制。息子に探春が嫁ぎました。

賈 環(13)
賈政の第三子。妾腹で宝玉の異母弟。ひねくれた性格で、ちやほやされる宝玉への妬み大きく、火傷を負わせたり、賈政に讒言して宝玉に折檻を受けさせたりしています。後に巧姐の身売りを画策しました。彼を怒らせると、母の趙氏が青筋立てて飛んできます(笑)。

趙 氏
賈政の妾(第2夫人)で探春・賈環の母。賈環を賈家の跡取りにしようと虎視眈々と機会を狙っていました。熙鳳と宝玉を呪い殺そうとして失敗、後日発覚して熙鳳の恨みをかいます。また、実娘の探春が言いなりにならないのを恨んで、事ある毎に怒鳴り込んでいます。史太君の出葬の時、悪鬼に責められて狂死しました。

趙国基
趙氏の弟。王夫人の召使。第55回で彼の死亡の際、趙氏と探春がもめています。

銭 槐
趙氏の甥。賈環が塾に行く時の供。両親は倉庫の帳面方。柳五児に惚れ、女房にもらうよう両親を説得しますが五児本人にはその気がなかったようです(第60回)。

周 氏
賈政の妾(第3夫人)。趙氏と異なり控え目で家人の信頼を得ています。

4.賈家の親戚

(1)林家(揚州)関係

先祖は列侯を襲爵し、如海で五代を重ねましたが、如海の死で断絶しました。本籍地は姑蘇。

林如海(50前後)
名は海。揚州の巡塩御史。会試に第3席(探花)で及第。黛玉の1つ下の男子が3才で亡くなり、子運には恵まれませんでした。罷免されてプラプラしていた賈雨村と知り合い、彼を黛玉の家庭教師に招きます。妻の死後、雨村(復職のため)と黛玉(賈邸で面倒を見てもらうため)を上京させました。
そんな彼も黛玉9才の時病死、黛玉の悲しみはいかばかりだったでしょうか。

賈 敏
如海の妻、賈赦・賈政の妹。黛玉6才の時にふとした病がもとで亡くなります。彼女を含めて姉妹は4人いましたが皆早逝でした。

林黛玉(14) /金陵12釵
如海の娘で、紅楼夢のヒロイン。2月12日生。母の死後、史太君の声がかりで上京しました。大観園では瀟湘館に住みます。生まれながらにして病弱な上、神経過敏で度量が狭く、日夜泣いてばかりいます。当初は宝釵をライバル視していましたが、本意を知って和解します。前世は絳珠仙女、その因縁で宝玉を一途に思い詰めますが叶わず、肺病と気落ちから、宝玉の婚儀の時刻にひっそりと息を引き取ります。

(2)薛家(金陵)・王家(金陵)関係

薛家は紫薇舎人薛公の後裔で代々学問の家柄。宮中の御内帑金御用達をつとめていました。上京して梨香院に入りますが、その後薛蟠が逮捕され、用達を願い下げ、質屋も全て欠損で倒産しました。
王家は都太尉統制県伯王公の子孫、子騰の死で子勝が後を継ぎます。

王子騰
王夫人の弟。京営節度使→九省統制(薛家が上京する間際に昇任し辺境へ)→九省都検点→内閣大学士になって上京の際、風邪をひき、医師の投薬ミスであえなく死亡しました。文勤公と諡されています。娘は保寧侯の子息と結婚しました(第70回)。

王子勝
王子騰の弟。爪で火をともす程のケチとのこと。

薛未亡人(47前後)
王夫人の妹。気がよくておおらかな女性です。王夫人の勧めで上京し、邸に入りました。親のない黛玉を不憫がって可愛がり、また薛蟠、薛蝌、宝琴、宝釵の婚儀を手がけました。薛蟠の逮捕後は金をバラまいて赦免を求めています。

薛 蟠(19)
薛未亡人の息子。字は文起。5月3日生。幼くして父を亡くし、素行の収まらないならず者に育ちました。香菱を買い入れる際に殺人を犯していますが、雨村の働きで事なきを得ました。賈家に入ると仲間ができて一層堕落します。金桂と結婚後は完全に威を失墜、尻に敷かれます。太平県で張三を殺して捕えられ、死罪は免れぬ状況でしたが、大赦令が出、また薛未亡人の働きで釈放されました。

香 菱(17) /副12釵
甄士隠の娘。5才の時誘拐され、売られて薛蟠の妾となりました。器量も人柄も人に優れ、薛家にまめに仕えています。大観園に入ると黛玉に詩を学び熱中しました。薛蟠の結婚後は金桂に目の敵にされ、更に金桂の計で薛蟠に疎まれます。金桂に毒殺されかけましが、幸い(?)金桂が誤って自ら毒を飲んで死んでしまいます。薛蟠の出所後は正妻になりますが、難産で死に、士隠に迎えられています。
雪芹の構想では金桂にいびり殺されるはずだったようです(第5回注など参照)。

宝 蟾
金桂の侍女→薛蟠の妾に。性格は激しく常に金桂とぶつかります。金桂が死んだ時は激しく香菱を責めますが、自分に嫌疑がかかり、その死因を推定しています。

夏金桂(17)
薛蟠の妻。夏家は戸部出入りの商家。父が亡くなり、甘やかされて育ったため、器量はよいものの、あばずれ女になりました。日々大騒ぎして薛家をひっくり返しています。香菱を毒殺せんとして、誤って自分が毒汁を飲んで死にました。

金桂の母
金桂の結婚後上京しました。金桂の死を聞くや息巻いて薛家に怒鳴り込みますが、宝蟾とのやりとりで金桂の品を実家に運び込んでいたことが発覚します。金桂の死因が判明するとオロオロして検屍の取りやめを頼み出ています。

夏 三
金桂の従弟で実家の養子。夏家に入ってから身代を食いつぶしました。金桂の死を聞いて母と共に薛家に乗込み、大暴れしています。駆けつけた賈璉によってつまみ出されました。

薛宝釵(17) /金陵12釵
薛未亡人の娘。黛玉とともに物語のヒロイン。1月21日生。学問才識深く、おしとやかで慎み深い女性です。幼い頃から父親に学問をしこまれ、女官候補となるべく家族と上京しました。大観園では蘅蕪院に住みます。士太君の発案で[金玉縁]のとおり宝玉と結ばれました。宝玉を諫めて学問に向かわせますが、宝玉は受験後に失踪しました。将来は遺児・賈桂が賈家を再興する、と予言されています。

薛 蝌(15~17)
薛蟠の従弟。宝琴を梅家に嫁がせるために上京しました。薛蟠の釈放のため奔走しています。賈邸に差押えの手が入った時も情報収集のため奔走しています。邢岫烟と結婚し、自分の持家に引き移りました。

薛宝琴(13?) /副12釵
薛蝌の妹。幼時、父の商用で諸国を巡りました。薛蝌と共に上京した折、史太君が一目で気に入り、王夫人の養女にして自分の膝元で育てることを決めました。梅翰林の息子と婚約中で、兄の婚姻と同じ頃嫁に行き、何不自由なく暮らしたとのことです。

梅翰林
薛蝌の父が都にいる時分に、宝琴が息子の嫁になる約束をしていました。

(3)史家(金陵)関係

保齢侯尚書令史公の後裔。本籍地は金陵。都におり、今は困窮しています。

史 鼎
湘雲の伯父。忠靖侯。地方の大官として転出し、のちに帰京しました。第13回では妻が可卿の弔問に訪れ、第14回では本人が葬送に参会しています。また、南安郡王とは親しく交流しているようです。

史湘雲(14?) /金陵12釵
史家の姫君。幼い時に両親を亡くし、叔母と暮らしていました。生活に困窮し日々夜なべ仕事に追われていたようです。1ヶ月~数日の滞在で賈家を訪れていましたが、伯父・史鼎の転任に伴い大観園に移りました。茶目っ気多く快活で才気煥発な女性です。嫁入りして間もなく夫が肺結核で死亡し、一生後家を通すことを誓っています。
○湘雲の結婚相手は誰か?
現行本では湘雲の夫の名前は明らかにされていません。探佚学では衛若蘭と結ばれたとされますが、反対意見も根強く、最終的に宝玉と結婚したとの説もあるようです。

(4)甄家(金陵)関係

賈家と古くからの親戚筋。罪を犯して家産を没収されましたが、後に再興します。

甄宝嘉
甄家の殿。字は友忠。勲臣の後裔。金陵城内の勅任体仁院総裁を務めましたが、罪を犯した角で家産を没収された上、帰郷服罪します。その後世襲職を帰され、安南安撫使に赴任しています。

甄夫人
宝嘉の妻。第56回で三番目の姫を連れて上京しています。

甄宝玉(15)
宝嘉の息子で宝玉と瓜二つ。6歳の時、賈雨村が家庭教師をしますが、手を焼いて辞めてしまいました。第2回で「先祖伝来の屋台骨を守り抜き、先生や長生の戒めに従うことなどできっこない」と雨村に言われています。
宝玉と同年同月同日生まれで、性格もそっくりでしたが、一足先に大虚幻境を訪れ、学問に目覚めました。李綺を娶っています。賈宝玉・賈蘭と共に科挙に及第しました。

包 勇
甄家の手代で家産没収後、賈家に来ました。賈家が家産差押えでガタガタした時も誠意をもって仕事に励んでいますが、酔って雨村に怒鳴りつけたのを賈政に咎められ、大観園の番人に回されました。邸に入った強盗に立ち向かい、何三を打ち殺しています。甄家再興後は江南に帰りました。

(5)賈家親族

賈代儒
家塾の塾長として一族の子弟の教育を任されています。賈家の義塾は先祖の手で作られたもので、一族(外戚も含む)の子弟で貧しくて先生を招くだけの資力のない者が入って勉強できるしくみになっています。あまり真面目な生徒はいないような気もしますが…

賈 瑞
代儒の孫。字は文祥。代儒不在で塾の監督をしている時、秦鐘と香憐の訴えを受けて逆に香憐を叱りつけ、大騒動を引き起こしました。賈敬の誕生祝の際に熙鳳にちょっかいを出し、熙鳳の毒計にはまって病を発し、風月宝鑑をのぞいて死にました。

賈 芸(20)
西長屋の五嫂の息子。賈二。14~15歳の時父を亡くし母と二人暮らしています。第24回で宝玉の養子になり(宝玉はすっかり忘れていたけど)、彼に白海棠を贈りました。熙鳳に取り入って大観園に花を植える仕事をまわしてもらった際に、偶然会った小紅を見初めています。巧姐の事件後、邸から追い出され、出入りを禁止されました。
探佚学によれば、賈芸は小紅と結ばれ、賈家が家産没収に会った際に、獄につながれた宝玉を救出する重要な役まわりを与えられていたそうです。

卜世仁・卜銀姐
卜世仁は香料屋を営む賈芸の叔父。第24回で賈芸が竜脳と麝香を掛売りで求めますが、断った上にひとくされ説教をしています。銀姐は娘の名前。

賈 芹
三の分家の四男坊。裏街に住んでいます。第23回で小坊主と小道士が送り込まれた鉄檻寺の管理者に任じられましたが、目の届かぬを良いことにバクチや酒食に耽り、後に尼との振舞を張紙で中傷されました。

周 氏
賈芹の母。第23回で小坊主と小道士を転任させるとの話を聞き、息子に仕事をくれるよう熙鳳にすがりに来ました。

賈 菌
栄国邸近縁の曾孫。塾の同窓で賈蘭と仲良し。向こう気が強く、塾騒動の際には金栄の友人が投げた硯が自分の水滴を砕いたのに腹を立てて暴れ始めています。
探佚学によれば、彼は賈蘭と共に立身し、賈家の栄光を挽回する役割を果たすそうです。

婁 氏
賈菌の母。若くして寡婦になったそうです。名前は第53回のみ

賈 璜
賈家の直系の子孫。東横町に住み、わずかな家産を大事に守って暮らしています。第9・10回に名前のみ出てきます。

金 氏
賈璜の妻。胡氏から塾騒動の顛末を聞いて寧国邸にねじこみに行きますが、未遂に終わりました。第9回で茗烟に「おべんちゃらをたたいてうまい汁を吸おうって能しかない、若奥様にへいつくばって質草を借り出そうって人」とこきおろされています。

胡 氏
金氏の義姉(ということは金氏は死んだ夫の妹)。家塾騒動のことで愚痴をこぼす金栄をなだめましたが、金氏に口をすべらせ、寧国邸にねじこみに行く!と息巻く彼女を必死に止めようとしています。

金 栄
胡氏の息子。第9回で家塾で秦鐘と香憐の密会現場を押さえた!と言って騒ぎ立て、大騒ぎを引き起こしました。宝玉の書童たちに「妾の子め!」と言われています。

賈 㻞
賈家との血縁関係は不明。賈敬死去の際に、邸に帰る賈珍らの代わりに史太君の警護をするため、賈璜と共に駆けつけています(第63回)。

賈喜鸞
の妹。第71回で史太君80歳の祝宴に母に連れられて参加し、その器量としぐさを史太君に気に入られます。巧姐事件頃は嫁に行っていたようです。

賈 瓊
賈家との血縁関係は不明。第13回で可卿の悔やみの際、賈薔・賈蓁・賈璘と共に客の応対をしています。

賈四姐
賈瓊の妹。第71回で史太君80歳の祝宴に母に連れられて参加し、その器量としぐさを史太君に気に入られます。巧姐事件頃は嫁ぎ先が決まっていたようです。

賈萍・賈菖・賈菱
賈家との血縁関係は不明。第23回で元春省親の際に姉妹が詠んだ題詠を、大観園内の石に彫り刻むことになり、賈珍・賈蓉と共に工事監督にあたっています。

賈 芝
賈家との血縁関係は不明。第105回で西平郡王が勅旨を申し渡し、賈赦が逮捕される席に居合わせました。

賈 瓔
賈家との血縁関係は不明。賈敬死去の際に賈璜・賈荇・賈㻞・賈菖・賈菱と仕事を分担しています(第63回)。

賈荇・賈芷
賈家との血縁関係は不明。第53回で賈家宗祠の時、内の儀門のところから彼らを先頭に列をつくり、料理を賈敬のところまで順送りに届けています。

賈代修・賈敕・賈效・賈敦・賈珩・賈珖・賈琛・賈璘・賈蓁・賈藻・賈蘅・賈芬・賈芳
可卿の悔やみに来た一族ですが、いずれも血縁関係は不明。「攵」「玉扁」「草冠」で輩行だけが分かります。

香憐・玉愛
塾の同窓で多情な生徒(男です)。共にあだなで本名は不明。入塾した宝玉と秦鐘に好意をもち、秦鐘と香憐の密会を金栄に見られたことが塾騒動を招きました。

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