意訳「曹周本」


第104回
汚垢に遭いて秋菱は性命を喪い、鬟僕(かんぼく/侍女)を裁いて紅玉は良縁を結ぶ

さて、賈璉が戻り、鳳姐が楊氏が来たことを知らせると、賈璉は「芹児がしでかしたことは話にならん。今ほど娘娘がお亡くなりになって、どんな事態が起こるか分からないんだぞ! そんな時に奴らはこんな悪事を働きおって。しかも自分でまいた種なんだから、大殿様に報告するしかなかろう」。 鳳姐は「私もそう思います。隠し通せれば芹児もますますいい気になって、あの小和尚、小道士、小尼の連中と好き勝手に振る舞い続けるでしょうし。この機会にはっきりさせて解雇した方がいいわ」。 賈璉もそれが妥当と思い、賈政に報告に行きました。

賈政は聞くなり激怒して、「芹児め、庵で賭場を開くなどとんでもないことだ! 仏門を汚すだけでなく我ら賈氏の家門にまで泥を塗りおって。今は災難を避けるのに手一杯だと言うのに。あの役人どもを見てみろ、我々をどれだけ冷遇するようになったことか! 賈雨村さえ姿を見せなくなった。こんな時にこれだけの騒ぎを起こしおって! 奴を連れてきて四十回の板打ちをし、クビにして別の者をあてがうんだ!」

賈璉は「はい」と答え、「大殿様は別の者をあてがえとおっしゃいますが、私が考えますに、娘娘が昇天なされました以上、あの小坊主、小道士、小尼を留めておくのは一つには金の無駄ですし、二つ目にはあの子たちがこのまま大人しくしているとは限らず、庵の中であれこれ面倒なことを起こし、いずれまた家門を汚すことになるかもしれません。この機会に解雇したほうが宜しいと思います」。

賈政はしばらく考えてから、「そうだな、お前の言うとおりにしよう。ただ、あの子たちが不満を持たないように、どうしても修行をしたい者がいれば残してやってもいいだろう。還俗したい者たちには何両かの銀子をやって帰してやりなさい。芹児には何ヶ月分かの小遣いをやって追い出し、他の仕事を探させるんだぞ!」

賈璉は急いで返事をし、部屋に戻って鳳姐に知らせます。鳳姐は「あとで芹児を呼んでちょうだい、尋ねたいことがあるのよ。あの小坊主、小道士、小尼どもに銀子をあげてやったりしたら大損じゃないの。今は出る物が多く、入ってくる物が少ないことはあなたも分かっているでしょう。旺児に人買いを呼んで来させて、まとめて売ってしまえば少しは足しになるんじゃなくて? 言いたくはないけど、今は以前とは比べものにならないのよ」。 賈璉は「だが、大殿様や奥方様は承知されんだろう。それに、うちの屋敷ではこれまで人を売ったことはないわけだし」。 鳳姐は「でも、ここの人間なんて金で買われた者ばかりじゃないの? 売るのはダメだって言ったって、あなたが一人一人どこかに落ち着くまで世話をするつもりなの? いっそ人売りにまとめて渡し、少し金をくれてやればいいじゃない。大殿様と奥方様には内緒にしておけばいいのよ」。 賈璉はちょっと考えて、それなら手数も省けることだと思い、旺児に手順を申しつけ、「大殿様と奥方様にはお知らせすることはない。ただ解雇したと言えば済む話だからな」と告げました。

いっぽう、鳳姐は賈芹を呼んで来させました。賈芹は泣いてすがりつき、「叔母上、どうかお慈悲を。私をお助けください。もう二度とこんなことは致しませんから」。 鳳姐は笑って、「あんたがしたのが良い事だったら、私も救ってあげたいわ。大殿様から、四十回の板打ちをし、解雇して追い出すようにとの申しつけがあったのよ。先ほど、あんたの叔父上(賈璉)に頼んでおいたから、四十回の板打ちは免れるでしょう。私はあんたを留めておいてあげたいんだけど、娘娘が逝去されたので、大殿様は小坊主、小道士、小尼どもを留め置くことはないっておっしゃるの。あの子たちがいなくなったら、あんたは何を管理するっていうの? あんたの叔父上に頼んで三ヶ月分の小遣いを出してあげるから、さっさと受け取って別の仕事を探しに行きなさい」。 賈芹は泣きながら、「どうか叔母上の元に置いていただき、別の仕事をお与え下さい。家に帰ったところで、私にどんな仕事を探せましょう?」 鳳姐は「今はとにかく帰りなさい。仕事があればあんたに知らせるから。元はと言えばあんたが引き起こしたことじゃないの。そうでなければ大殿様もあの子たちをクビにしなかっただろうし、あんたもちゃんとした仕事をもらえたのよ。今あんたに簡単に仕事をまわせると思って? 帳場でお金を受け取って自分で何とかしなさい!」 これには賈芹もどうすることもできず、鳳姐に感謝しつつ、泣きながら、「叔母上の温情は決して忘れません。私はもう参りますが、どうぞ心に留めおきください。一生を掛けて報いますから」と言って、肩を落として出て行きました。


さて、宝釵が嫁に行った後、夏金桂は二度帰ってきたので、薛家ではもちろん喜びました。金桂は家に帰ると秋菱だけを付き添わせ、毎日宝蟾の不満をこぼしていました。毎回実家に戻るたびにアクセサリーを持ち出していましたが、薛家ではあずかり知らないことでした。

その日は金桂が戻ったので、薛蟠はとても喜び、自らお茶を注いで飲ませました。金桂は疲れたので休みたいとだけ言いました。昼寝から覚めると、髪を洗いたいと言うので、秋菱は急いで水を運んできて洗髪の手伝いをします。金桂は薛蟠に髪油を持ってこさせ、小箱の中の簪を二本選んでくるように言いました。薛蟠は秋菱から鍵を受け取ると、衣装箱を開けてアクセサリー箱を取り出します。

しかし箱を開けてみると、簪、イヤリング、各種のアクセサリーは一つもありませんでした。そこで、「この箱には簪やアクセサリーなんて入っていないぜ。きっとあんたの思い違いだろう。別の箱を見てみようじゃないか!」と言うと、金桂は「馬鹿を言わないで! 間違いなく一纏めにして、この箱に入れたのよ。どうしてないなんて言うの?」 薛蟠は「本当にないんだぜ。信じられないなら自分で開けてみな」。 金桂は「信じるわけないじゃない」と言って箱を開け、たちまち大声で泣き出します。「私のアクセサリーはどこに行ったのよ? 普段私がいない時は、みんなこの箱に入れておいたのよ。きっとあんたが博打で負けたもんだから持って行って売り払ったのね。さもなきゃ宝蟾と結託して盗ませたんだわ。あのアクセサリーがどれだけの銀子で買ったと思って? 盗まれたら私は一文なしよ!」と言いながら、薛蟠に詰め寄ります。薛蟠は自分が盗んではいないので、金桂が泣き喚いて自分のせいにするのを我慢できず、両目を大きく見開いて言いました。「自分でよく探してみなよ。私はあんたのアクセサリーなんか見たこともないんだぜ? 人をせいにしたってしょうがないだろう」。 金桂はますます口汚く罵ります。「この碌でなし! あんたが私のアクセサリーを盗んだのよ。ごちゃごちゃ言わずにあんたの妾の部屋に探しに行ってちょうだい。ないはずはないんだから!」

薛蟠は金桂が自分と宝蟾に責任を押しつけるのが面白くなく、こう言い返します。「人のせいにしないでくれよ。あんたが出て行った後、宝蟾があんたの部屋に入ったことがあるかい? いくら詰め寄ったって宝蟾が認めるわけないだろう? それに、この部屋にはずっと秋菱がいたんだから、秋菱を疑うのが筋で、宝蟾を咎めるべきじゃないだろう?」

秋菱は金桂が怒っているのを見て、傍らからなだめ、「奥様、落ち着いてください。もう一度箱のすみずみまで探してみましょう」と言って、金桂の手助けをして衣装箱を開け、一つ一つひっくり返してみましたが、アクセサリーは一つもありませんでした。

金桂はますます大騒ぎし、口汚く罵ります。薛蟠は「もし私があんたのアクセサリーを盗んだのなら、とんだ恥知らずの人でなしだぜ」と言って、秋菱に向かって、「日ごろお前はここにいたんだから、アクセサリーを見なかったのか? この人がこんなにいらいらしているじゃないか」。 秋菱は「私は奥様に代わって部屋番をしていただけです。どうして奥様の衣装箱を開けたりしましょう。中にどんなアクセサリーがあったのかも存じませんわ!j

金桂がますます喚き散らすので、薛蟠は「もう騒がないでくれよ。あんたは秋菱に鍵を渡して衣装箱を開けさせたことはあるのかい?」 金桂は「あるに決まっているじゃない。鍵はひとつながりにしてあるし、アクセサリー箱を開ける鍵も一緒だもの」。

秋菱はこれを聞くとわっと泣き出し、自分は決してそんなことはしないと誓いを立てます。金桂は薛蟠が盗んだんだと何度も決めつけます。

薛蟠はかっとなり、棒を手に取って秋菱をひっぱたき、怒鳴りつけます。「お前は部屋で何をしていたんだ? この売女(ばいた)がふざけた考えを起こしてアクセサリーを盗み、とんずらして再婚でもするつもりだろう。本当のことを言わないと打ち殺してしまうぞ!」 秋菱は泣きながら、「私はそもそも関わりがありませんでしたのに、こちらの部屋番を仰せつかり、物がなくなれば私のせいにされるのですか? 打ち殺されようとも決して盗んでなんかおりません」。 金桂は「あんたに部屋番をお願いしたのは善意からよ。アクセサリーがなくなるなんて思わなかったし、私はあんたを疑ってはいないわよ」。 薛蟠は「あんたはこいつを疑わずに私のせいにするけど、私が今まで物を盗んで博打に行ったことがあったかい? この下種(げす)の女をさっさと打ち殺してやるさ」。 秋菱は泣きながら、「天地の神々はご存知です。私、秋菱は決してそんなことはいたしません! 旦那様と奥様に打ち殺されて無念の死を遂げても、あの世で閻魔様もお許しになりませんわ」。

薛未亡人は最初は部屋で大人しく聞いていましたが、大騒ぎになって薛蟠が暴力をふるい始めたので慌ててやってきました。宝琴も付いてきました。

薛未亡人は「しばらく騒ぎはなかったのに、おとなしく過ごせないのかい? 今日は秋菱を打ったりするなんて!」 薛蟠は「何をしたのか、こいつに聞いてみなよ」。 秋菱は「奥様の首飾りがなくなり、私がこの部屋を見ていたので、旦那様は私が盗んだとおっしゃるんです」。 薛未亡人は怒って、「この甲斐性なしの罰当たりめ。はっきり分かりもしないのに人を打つなんて。この娘が来てからのこの数年、我が家で針一本なくなったことはないんだよ」。 金桂は泣きながら、「私は宝蟾が盗ったと言ったのに、この人が秋菱のせいにしたんですわ」。

薛蟠は「秋菱はずっとあんたの部屋にいたんだし、あんたの鍵も管理していた。宝蟾はあんたの部屋に入ったことがないんだぜ。あの娘のわけがないじゃないか」。 金桂は「いずれにせよ、この部屋にあったアクセサリーがなくなったのよ。私が実家に持っていったわけでもあるまいし!」

その言葉に宝琴がピンときて、「秋菱はここの部屋番をしていても、なるべく手出しはしなかったはずです。お義姉様が出かける時にアクセサリーの一つ一つを秋菱に点検させたことがありましたか?」 金桂は「出かける時はバタバタしているもの。彼女に点検してもらったことなんてないわよ」。 宝琴は「秋菱に点検させたことがないのに、お義姉様は百個がなくなったら、秋菱にその百個を弁償させるのですか? それに、お義姉様が実家に戻られる時はいつも荷物を持って行かれたのですから、中に何を入れていたかは御存知なのではないですか?」

金桂はこれを聞くと、いささかの後ろめたさから思わず顔を真っ赤にし、泣きながら、「まさに『犬が呂洞賓を吠え、善人の心を識らず(=人を見分ける目がない)』とはこのことだわ。私は善意から彼女に部屋番をお願いしたのに、根も葉もない言いがかりをつけられるなんて。妹妹はいずれ嫁に行ったら、きっと嫁ぎ先のアクセサリーを実家に運ぶんでしょうね」。 宝琴はひるまずに厳しい顔つきをして、「誰もがお義姉様みたいなわけじゃありません! 引っ越す時に何かあっても人を疑ったりはしませんわ!」 金桂は大声でわめき立て、泣きながら、「私が誰を疑いました? 私の物が盗まれても黙っていろっていうの? それこそとんでもないことじゃないの。私一人を責めないでよ!」

薛蟠は宝琴の言うことを聞いて、はっと気付きました。思えば、金桂が出て行く時は荷物はいつもずっしりと重く、これまでにどれだけのものを運び出したか分からない。そこで、「あんたももう一度よく探してみなよ! どこにやったのかは知らないけど、秋菱を打ち殺し、宝蟾を打ち殺したところで分からないかもしれないぞ」。

秋菱はこれを聞くと悲しくて泣き出しました。金桂はなおも喚き散らします。薛未亡人は怒って、秋菱に向かって、「お前ももう泣くんじゃないよ。さっさと片付けて私と一緒においで! もし本当にお前が盗んだことがあとで分かったら、私が先にあんたを追い出すから、その時に首飾りを弁償させても遅くはないだろう」と言って秋菱を連れていきました。

秋菱は出てくると、金桂は最初から自分に責任を押しつけるつもりだったんじゃないかと思い、考えれば考えるほど腹が立ちました。その日は一晩中泣きじゃくると、寝汗をかいて病状はさらに重くなりました。宝琴が慰めに来ますが、いかんせん秋菱は生まれながらに体が弱く、また何度も腹を立て、一時も気を晴らすことができません。何人かの医者の薬を飲んでも効果は見られず、肝気が乱れて痛みが起こり、一日中頭が朦朧とし、ついには昏倒するようになり、病気は日一日と重くなっていきました。

その日、宝釵が彼女に会いにやってくると、秋菱は涙を流すばかりでした。宝釵は慰めて、「何日か会わなかっただけなのに、どうしてこんなふうになってしまったの? あんたは少し気を紛らすべきよ」。 秋菱は金桂の部屋を指さして、「私は生まれつき運が悪く、あの方に巡り会う運命だったんです。もう良くなるのは難しいですわ」。 宝釵は「お医者様に診てもらって養生すればきっと良くなるわよ。腹を立てたってしょうがないじゃないの。あの人を相手にしてどうするのよ!」 秋菱は喘ぎながら言います。「お嬢様は分かった方です。『木は静まろうとしても風はやまない(=物事は思い通りにならない)』と申します。私の病気はもう手遅れです。肝気が滞ってたびたび昏倒し、食事も進まず、良くなる望みがどこにありましょう。毎日お嬢様のことを思っておりましたわ」。

宝釵は秋菱の顔が黄色く、寝汗をびっしょりかいて元気がないのを見て、ハンカチで汗を拭いてやり、ため息をつきながら、「つまらないことを考えずに気持ちを大きく持つことが大事よ。もうしゃべらなくていいから静かに休みなさい。食事が進むことを考え、養生すれば日一日と良くなるわよ」。 秋菱は枕の上に涙をこぼして頷きました。

宝釵は秋菱のひたいを撫で、布団を掛けてやってから退室し、薛未亡人の部屋にやって来ました。

薛未亡人が「あの子の病気をどう思う? 大丈夫かね?」と尋ねると、宝釵は「あまりよろしくないです。病気で肝気が乱れ、顔は黄色く、目は赤く、体はひどく弱っています。厄払いの意味でも、私は葬儀の用意をしておいたほうがいいと思いますわ」。 薛未亡人は涙を落として、「早いところ蝌児に手配させるとしよう。あの子も可哀想だね。小さい時から父母もおらず、実の名前さえ知らないんだから。あんたの兄と私に何年も誠実に仕えてくれたのに、こんなことになってしまって」。

宝釵はしばらく慰めてから帰りましたが、宝玉が馬鹿げた発作を起こすのを恐れて彼には知らせませんでした。こっそりと襲人にだけ告げ、ひとしきり嘆息しました。

金桂は何日か滞在しましたが、宝琴が真実を暴き、馬脚を現わすのを恐れ、向かっ腹を立ててさっさと実家に帰ってしまいました。

秋菱は病気で起きられず、終日うめき声をあげ、口が苦く腰が痛いと叫びます。薛蟠は何人かの医者に診てもらいましたが、いかんせん病は既に膏肓に入り、数日も経たずに亡くなってしまいました。

薛未亡人と宝琴は何度も泣きました。薛蟠も秋菱にたくさんの良さがあったのを思い、棺をなでて慟哭し、彼女を殺してしまったと言いました。二、三十人の坊さんを呼んで、三日後に読経し、水陸大法会を催し、施餓鬼を行い、大悲懺(だいひざん)を唱え、秋菱を埋葬したことについてはこまごま述べません。


さて、史湘雲は婚礼が間近となり、結納の日となったので、賈母は邢、王の二夫人、宝玉、宝釵、尤氏、惜春を連れていって数日間滞在しました。李紈は行かず、鳳姐も病気であるうえに家事を見る者が要るので行きませんでした。賈母が戻ってきて言うには、「新郎は才色兼備で申し分ないね。雲ちゃんも喜んでいたし、新郎もとても思いやってくれるそうだ。雲ちゃんも苦労した甲斐があって、良いところへ落ち着いたよ」。 李紈と鳳姐はこれを聞いて喜び、「雲妹妹はやっぱり才色兼備の人と結ばれる運命だったのよ。あの子の人柄のおかげでしょうね」。

鳳姐は賈母が喜んでいるのを見て、この機会に鉄檻寺と水月庵の小坊主、小道士、小尼たちを解雇したことを申し出ました。賈母と王夫人はこれを聞いて「結構だね」と言い、さらに「小和尚、小尼たちだけじゃなく、うちの屋敷で省けるものは省かないとね。今ほど娘娘が薨去され、庄園の実入りもなく、以前と同じにはならないんだから。各部屋の侍女だって五人のところを三人に整理すべきだね」。

自分の部屋から整理しようと、賈母は自ら侍女四人を削り、王夫人も二人を削りました。他の部屋でもそれぞれ一、二名を削りました。王夫人は「今は殿方づきの侍童も整理するべきね。残しておく者も年頃になったから、整理する侍女を見合わせてあげましょうよ! みんなが不満を抱かないようにしなくてはね」。

賈政はこれを知ると、元春妃が夢枕に立って話したことを思い出し、頷いて言いました。「正にそうあるべきだ。いくら羽振り良く見えても、中身がスカスカでは容易に崩れてしまうものだ。今のうちに少し引き締めておいた方がいいだろう」。 そして、賈珍と賈璉を呼んで相談し、「寧国府の宗祠の裏にまとまった土地があるだろう。大観園を寧国府につなげた時にも一角を区割りしたが、家廟を修復して、祖先の位牌をお祀りすれば子孫としての道を尽くすことになろう。二人はどう思う?」と言うと、賈珍と賈璉はともに、「大殿様のお考えはもっともです」。 賈政は「であれば、吉日を選んですぐに工事に入るとしよう。来年の春になったら、お前たち二人は一度南方に行ってくれ。先祖代々の墓地の近くにいささかの不動産を買い、後代に退路を残しておこう。今は以前と同じにならないのだし、私たちも目の前のことだけを見ずに将来を見据えなくてはならないな」。 二人ははいと答えて退出し、家廟修繕のことを話し合うのでした。

それはさておき、宝玉は屋敷内で侍女たちに暇を出すと聞き、急いで鳳姐に頼みにあがり、一方で賈芸へ言づけをしました。鳳姐は笑って「あなたは芸児を呼んでちょうだい。私は小紅に聞いてみるから」。

その日の午後、賈芸がやってきて鳳姐にあいさつし、「叔母上の御依頼の件は全て適切に処理しました。利息も受け取ってまいりましたのでお納めください」。 鳳姐は平児に受け取らせて、「あんたは本当にまじめで優秀ね。今回は思い切って二千両の銀子を渡すから、この利息で貸してちょうだい。借用書を書いて銀子を受け取りに行って。ちゃんとお礼はするから」。 賈芸は喜色を満面に浮かべ、すぐに借用書を書いて鳳姐に渡しました。

鳳姐は割り符を渡し、借用書を平児に渡すと、賈芸に向かって言います。「宝玉さんから聞いたんだけど、あんたにはまだ奥さんがいないんだってね。今度屋敷では侍女に暇を出すことになったんだけど、あんたの意中の者はいないの? 気が利いて、鷹揚で、心優しい娘を選んであげるわ。そこいらの娘より十倍も優れているわよ」。 賈芸は急ぎひざまずいて、「叔母上に私のことを考えていただけるとは恐縮です。お屋敷のお姉様方は見識が広く、よその者よりずっと優れていらっしゃいませす。叔母上はどなたを見合わせていただけるのですか?」 鳳姐は口をすぼめて笑い、「だれか意中の者はいないの? 言ってくれれば何とかしてあげるわよ」。 賈芸は笑って、「意中の方だなんて滅相もありません。ただ、私はいつも叔母上のところに参りますが、小紅さんがとても有能な方であることを存じております。叔母上、小紅さんを私にいただけませんでしょうか! この御恩は生涯忘れませんから」。 鳳姐はわざと首を振って、「他の侍女なら構わないけど、小紅は私が必要としているもの、あげるわけにはいかないわ」。

これには賈芸も棍棒で頭を叩かれたようなショックを受け、ひざまずいて鳳姐に叩頭し、口ではなおも、「素敵な叔母上、親愛なる叔母上、今ほど私に、気が利いて鷹揚で心優しい方を見合わせるとおっしゃったではないですか。小紅さんは正にそのような方ではないですか? 叔母上、どうか私に見合わせてくださいませ!」 鳳姐は眉間にしわを寄せてちょっと考えたふりをしてから笑って、「分かったわ。これが他の人だったらどんなに頼まれても断じて承知しないところだけど、あんたはよく仕えてくれて仕事も熱心だし、仕方ない、残念だけどあんたにあげるわ。叔母上のお陰だということをよく覚えておきなさいよ。明日、二百両の銀子を持っていらっしゃい! 別に私が欲しいわけじゃないわよ。二百両ばかりの銀子を珍しがるもんですか。ただ、あんたの顔も立てる必要があるし、あの娘の花嫁道具を揃えるのだって二百両じゃ足りないんですからね!」 賈芸は急いで礼を述べ、「そこまでお考えいただけるとは思いもしませんでした。明日にでもお届けします。どうか叔母上には私の主婚(婚礼を主催すること)をお願いいたします」。 鳳姐は頷いて承知しました。

今の賈芸が二百両の銀子に困るはずもなく、午後には届けてよこしました。鳳姐は宝玉に知らせ、また林之孝の妻を呼んでこの事を話し、小紅に承知か否かを確認してもらいました。小紅は頷いて承諾しました。

林之孝の妻は鳳姐の主婚とあっては顔も立つし、賈芸は今も屋敷内で仕事をしていて手元も豊かだ。賈芸も賈府の血縁で、小紅は若奥様ということになる。そう思うと心中嬉しく、もちろん承知しました。

賈芸は黄道吉日を選び、鳴り物入りで賑やかに小紅を迎えました。小紅は本名の紅玉に改めました。鳳姐のところではひととおりの嫁入り道具を用意し、また暇を出す侍女見習の中から二人を選んで介添えにして小紅に仕えさせ、これにより二人の心配事はなくなりました。紅玉は家計を厳しく管理して次第に財産をなし、家運はますます栄えたのですが、これは後の話です。

一方で、屋敷内のその他の侍女は、希望して出て行く者もあり、泣きながら出される者もありました。見合わせてもらえる良き侍童がいる者は幸いでしたが、身寄りもなく人買いに売られる者、身の置き所もないほど泣き続ける者、壁に頭をぶつけて死ぬ者もあり、いちいち語り尽くせません。

さて、周瑞の義子の何三は、いつも酒を飲み博打を打ってまともに仕事をせず、たびたび賈璉の機嫌を損ねていましたので、今回も削減のリストに入りました。

周瑞の妻は慌てて王夫人に助けを求め、「奥方様にはこの老いぼれの顔に免じて、なんとかあの出来損ないを留め置きいただき、心を入れ替えるようお導きいただけませんでしょうか」。 王夫人は「あの子は小さい時から酒を飲んで博打を打ち、勉強もしようとしないから今になって首にされるのよ。あんたが私の介添えだからって、私が取り成しをお願いしたら他の者に示しがつくと思う? あの子にはしばらく暇を与えるけど、ちゃんと態度を改めるならきっとまた呼び戻すから、あんたも安心していなさい」。 周瑞の妻はそう言われては承諾するしかありませんでした。

趙氏は侍女たちを整理すると聞くと、彩雲を賈環に与えてくれるように賈政に話しました。賈政は「環児は年も若いんだから、まだ妻を娶るのは早いだろう。先に部屋づきの者を整理すべきじゃないのか?」 趙氏は「妻も娶らず、部屋づきの者も出してしまいますと、あの子を押さえつけるものがなく、暴れ馬のように好き勝手するようになりますよ」。 賈政は考えて、それも道理だと思って王夫人に話をします。王夫人は承知しますが、彩雲は泣いて行きたがりません。趙氏は情理を尽くして何度も説得し、また、多くの品物を贈り、ようやく彩雲を口説き落としました。王夫人も多くの恩賞を与えました。


話変わって賈雨村は、府天府の知事になって多くの役人たちと交際し、官界の秘事についても更に熟知するようになり、自ら調べたところ、賈政は役人として品行方正ですが、とかく厳しくやり過ぎて、一部の役人たちの恨みを買っていることを知りました。ましてや賈府に昔の権勢は既になく、貴妃が薨去されてからの賈府の凋落は明らかで、いずれ不測の事態に見舞われるのは避けようもありません。再び交際しようとするはずもなく、上京してからは孫紹祖と親密にしていました。

孫紹祖は賈雨村に、忠順親王に付いておかないかと勧め、雨村は最初は承知しませんでしたが、孫紹祖に何度もそそのかされたので行ってみました。しかし、二度訪れたものの、いずれも冷たくあしらわれました。忠順親王は、賈雨村が賈家に連なる人物で、さらに賈貴妃が勢いを得ていた時に賈政によって推薦されているので、距離を取るのも当然でした。彼が口先だけの人物であることも嫌いました。賈雨村は仕方なく、また孫紹祖と相談することにしました。

孫紹祖は少し考えて、「何でも忠順親王殿下はとても骨董書画を好まれるそうです。ここはひとつ、私の岳父(賈赦)の手にある石阿呆の例の十二枚の古扇を贈って忠孝を示せば、忠順親王殿下もきっと喜ばれることでしょう」。 雨村はこれには意を決めかねて、「あんたの泰山(岳父)はあの扇を命より大切にされているのに、簡単に人にくれてやるだろうか?」と言うと、孫紹祖は「あちらの屋敷は今、以前と同じにはなりません。貴兄は親王殿下が欲しがっているとだけ言えば、どうすることもできませんよ」。 雨村は笑って頷きます。

次の日の朝、賈雨村は駕籠に乗って賈家にやってきて、賈赦を訪ねました。お茶が出た後、遠回しに用件を伝えます。賈赦はこれを聞いてはなはだ面白くなく、こう思うのでした。この扇子はそもそもお前が奪ってきたものだろうが。どうしてまた親王殿下に献上しようとなんかするんだ? そうは思っても、口で言うのはまずい。そこで口実を設けて断ることにし、「来られるのが遅かったですな。これも私の不注意ですが、私はこの扇がとても気に入っていましたので、毎日身につけておりました。去年、酒楼に行く機会があり、そこの娘たちが見たいと言っていたので携えて行ったのですが、不覚にも梁上君子(りょうじょうくんし/盗人)に見られ、私が酒に酔った隙に盗まれてしまったのです。ひどく後悔して何日も探しましたが、影も形もありませんでした。もしまだ手元にあって、忠順親王陛下がお喜びとあれば、私も留め置いたりはいたしません。どんな宝物であっても必ず献上いたすところでしたが」。

賈雨村は彼が不承知なのだと思い、強引に事を運ぶのもまずいので、屋敷に戻って孫紹祖を呼んで相談しました。

孫紹祖はしばらく考えてから、「あの親父殿は頑固一徹で道理をわきまえないのです。私に五千両の借金があるのに、家内が亡くなった時に璉の叔父上が来て、わけもなく借用書を持って行きました。私が相殺できるかどうか問い質しに行ってみます」。 雨村は喜んで「もし相殺できるのなら、五千両といわず、一万両の銀子でもお支払いしますよ」。 孫紹祖はますます喜び、これより頻繁に賈赦に銀子の催促をするようになりました。

賈赦はもちろん認めず、既に精算したと言います。孫紹祖はかんかんに怒って、「あんたは祖先の権勢を笠に着て、私の金銭をいわれなく騙し取ったんだ」と言って、役所に告訴すると言い触らします。さらに、「借用書は騙し取られたが、賈雨村殿が見ていたんだぞ。銀子を持ってきたことは両家の者はみんな知っているし、調べればいずれ分かることだ。覚えがないのなら断言してもいい。他に誰が私の銀子をくすねると言うんだ!」 賈赦は相手にせず、その後は身を隠して姿を見せません。孫紹祖は銀子を取られたと言って、門前で口汚く罵りました。

このことは賈璉の知るところとなりました。その日、孫紹祖が来たのを知ると、二、三十人の家人とともに彼を取り囲み、指をさして痛罵します。「この恥知らずめ! うちの二妹妹がどんなふうに死んだのか覚えていないのか? あんないい子がいわれもなく首を吊ったんじゃないか! みんなお前の馬鹿げた行いのせいだろうが! 私もちょうどお前を役所に訴えようと思っていたんだ! どの面下げて金をゆすりに来れるんだ! うちの二妹妹のあんなに多くの嫁入り道具をもらっておきながら、なおも満足せずに騙し取ろうって言うのか?」

家僕たちも憤慨し、一斉に取り囲んで殴る蹴るの暴行を加えました。孫紹祖も家人を何名か連れていましたが、手出ししようがありませんでした。ましてや、彼らは奥方(迎春)の死を不憫に思い、平素から孫紹祖を恨んでいたので、適当にあしらい、わざとらしくなだめたりしました。孫紹祖は頬を一発殴られ、頭を抱えてほうほうの体で逃げていきました。続きはどうなるでしょうか、次回をお聞きください。


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