伊香保ルポ

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○調査日:2001年3月13日、2002年8月26日
第74話「湯治者たち」で、一刻館住人たちと三鷹さんが湯治に出かけるエピソードがあります。この温泉は石段街で有名な群馬県の伊香保温泉であることが分かっております。このたび伊香保を訪れる機会があり、原作に使われた風景をさぐってきました。

(1)石段街

「語り尽せ熱愛時代」には次のような対談があります。

平井 この間の『めぞん一刻』の温泉のシーンは行かないでかいた?
高橋 あれは実は行ったんです。お正月に最寄りの人々と連れ立って伊香保に行きましてね。(中略)編集さんのほうがこれは使わないと損だと思ったらしく、「温泉ものかかない?」と言われたんですよ。そうするとやっぱり行ってみてよかったなというところはありますね。

伊香保温泉といえば石段。斜面にはりつくように続く長さ300メートル、360段の石段は伊香保のシンボルであり、一刻館一同もこの石段通りを登って宿へ向かいました。
冒頭で五代君が「別にい~」と言いながら登っていた場面は、完全に同じ場所が見つからなかったのですが、下の2カ所を候補としてみます。与謝野晶子の詩が石段に刻まれた、石段通りの中腹付近です。

石段
「別に~」の場所?
石段
「別に~」の場所?

次の写真は五代君がみんなの荷物を背負って「温泉なんて来るんじゃなかった…」と言いながら登っていた場所です(クリックすると原作との対応図が見られます)。

原作の「資生堂化粧品」の看板については、2001年3月時点では、右側の青みがかった建物(松田百貨店)に「SHISEIDO」の青い看板が確認できました(右の写真)。しかし2002年8月時点では既になくなっていました。
原作のちょうちんや「ことぶき」「しずかスナック」の看板も、同じ位置にあります。ただし、ご覧のように「スナック鶴亀」の看板になっており、当時は原作のとおりだったのか、高橋留美子先生が書き換えたものなのかは分かりません。
また、「スナックつるかめ」というお店は原作の最終コマにも登場します。

五代が登っていた石段
五代が登っていた石段
資生堂の看板
資生堂の看板

次に、三鷹さんが「まだこんなとこにいたのか」と言いながら五代君を見下ろしている場所は、完全に一致する場所は見あたりませんでしたが、「レポート・めぞん一刻」のくろべさんは、上記の場所との位置関係および「まんじゅう」の看板から「田中屋」の前と推定しています。田中屋は江戸時代から続く和菓子屋で、原作にも登場する名物「湯の花まんじゅう」のお店です。

三鷹が立っていた場所
三鷹が立っていた場所

(2)古久屋旅館

一行が泊まった旅館のモデルとして、「レポート・めぞん一刻」のくろべさんは古久家(こくや)旅館を提唱しています。

古久屋旅館
古久屋旅館

その根拠として、(1) 古久屋旅館の家紋(丸に抱き茗荷)が、原作に登場する宿の浴衣や湯飲みのマークと酷似していること、(2) 古久屋旅館の大展望風呂の様子が原作の宿のお風呂と類似していること、(3) 石段街の最上部に位置していること、を挙げています。
そこで私も、実際に古久屋旅館に宿泊して検証してみました。上の写真のように、外観は原作の宿とは似ても似つかぬ高級旅館であることをまず申し上げます。また、古久屋旅館には本館と新館がありますが、新館は平成3年のオープンとのことで、モデルにしたとすれば本館ということになります。

展望大浴場(パンフより)
古久屋の男性展望大浴場

古久屋旅館の展望大浴場はご覧のように、枡形の浴槽が2つ並び(男・女湯とも)、眺望も抜群で、晴れた日には窓越しに赤城山を見ることができます。これらの点では原作と類似しています(微妙な描写の違いはありますが)。
浴槽が2つあるのは、伊香保の湯は茶褐色の「黄金(こがね)の湯」と無色透明な「白銀(しろがね)の湯」の2種類があり、それぞれを別の浴槽に入れてあるためです。また、夜中に男風呂と女風呂が入れ替わるため、両方に入浴することができましたが、原作の浴場は男性展望浴場「ながめの湯」の雰囲気がより近いようです。

丸に抱き茗荷
古久家旅館の家門

古久屋旅館の家紋(丸に抱き茗荷)は、新館の外壁、入口の看板、各部屋のテーブル、浴場のバスマット等に描かれていました。原作のように湯飲みには描かれていませんでした(^^; また、丹前に描かれているかどうかは確認できませんでした(時節柄、丹前は用意されていなかったので)。

以上から、一刻館住人には敷居が高すぎる高級旅館ですが、高橋留美子さんが実際に古久屋旅館に泊まって、モデルにした可能性は高そうです。
もちろん、ロビーも部屋のつくりも食事も原作の宿とは比較にならないほど格調高く、優雅な一夜を過ごせましたことを付け加えさせていただきます。