紅楼夢に見る中国社会

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(3)道教
錬丹術

玄真観で仙人になる修行をしていた賈敬は、第63回で金丹を呑んで頓死しました。医者は「これは道教でやります金を呑むとか、丹砂を服用するとかなさったために、焼けて腫れ上がり、そのために亡くなったものです」と説明しています。これはどんな方法だったのでしょう?

中国では万物は「気」からなるとされます。道教の思想の核となる神仙説によれば、不老長生(仙人)になるためには、永遠に輝きの失わない気(丹)を体内に宿せばよいとされます。「封神演義」でいうように仙人骨を持っていればいいというものではありません(誰も持ってないって)。丹には幾つかの種類があり、最高の丹は金色をしているので、「金丹」とよばれます。金丹が体内にあれば不老不死を得られます。

その方法として内丹法外丹法がありました。内丹法は自分の気から体内で金丹を作る方法、外丹法は外で金丹を製造してそれを飲むこんで体内に入れる方法です。目的は同じなんですが、内丹法だと長く厳しい修行が必要なので、当初はてっとり早い外丹法が支持されたようです。

内丹法
…人体内で丹を創造する方法

最初は丹田と呼ばれているつぼの周囲に体内にある気を集め(黒い霧状のものと考えられる)それを呼吸と意識の集中により、密度が濃く、色も白とか赤のものとし、最終的に高密度で金色の気の塊にします。各種の法はこの過程で使用する方法です。

(1)辟穀法
(穀物を食べずに野生の食物を摂取する)

「辟穀」とは米・黍・麦・粟・豆の五穀を断つことをいいます。これは体系からすれば補助的な方法です。五穀を断つ理由は二つありました。

(1) 体の中には上丹田・中丹田・下丹田という3つの中枢があり、三尸(さんし)という病気をもたらす虫が住んでいるといわれます。三尸は穀物によって生まれ、活動すると考えられたので、これを撲滅するため。

(2) 五穀は俗人の食べ物なので汚れた気が含まれていると考えられ、それを食べないことで体内が純化され、また、野生の食物からより気のレベルが高い食物を取り込むことで気の塊の高濃度化を助けようというものです。

(2)導引法
(身体を屈伸して血脈などの流通をよくする)

導引とは身体を屈伸して血脈などの流通をよくする肉体的実践法(体操)のことで、経絡とその他の脈に滞り無く気が流れる状態にするのが目的です(気功法に通じるものがあります)。有名なものには「八段錦」や「簡易式太極拳」などがあり、金丹製造から云えば本当の準備段階です。

(3)胎息法
(呼吸法で生命活動の気を摂取する)

「胎息」とは母体内での胎児の呼吸(無呼吸)のことで、胎児の状態は気のエネルギーレベルが高いと考えられました。呼吸法には外気法(外気を一定のルールに従って呼吸。どれだけの時間をかけるかで修行者のランクが決まる)と内気法があり、内気法を特に「胎息法」と呼びます。

(1) 服気:内気を摂取する方法で、外気を吐く時に喉元に上がってきた「内気」を口内にため、丹田に導いてやります。

(2) 行気・練気:内気を循環させる方法で、体内の特定の部位に送ってやる(強い観念とイメージが必要)のが行気、体内を自由に循環させてるのが練気と呼ばれます。

長い間息を止められるということは気のエネルギーレベルが上がった証拠とされるため、胎息という状況は金丹が体内で製造された時に現れるともいわれています。

(4)存思法
(体の各部に神を想定し、それを瞑想する)

人間の体内には五臓六腑をはじめ、あらゆる部分に神が宿るとされます。気が失われると体内の神々が肉体を抜け出すために病気や死を招くと考えられました。「存思法」は瞑想により体内の気の道をたどって体内の神々を認めていく方法と、体外の神(太陽神など)を取り込んで自己と一体化させる方法があります。

これは、初期の気の塊をその部分で特定の神を思うことで金丹に近づけていこうという操作です。道教の神には五行に基づいた性質があり、そのパワーを借りようとしているのです。ただし、全ての流派に共通した方法ではありません。

(5)房中術
(男女の性の交わりによって精気を摂取する)

万物は男女の交わりから生じ、正しい運用は不老長生をもたらすと考えられました(その手法については省略します)。房中術(性秘術)も陰陽などに理論づけられる歴とした長生法ですが、人々が快楽に走り(裏で道士が煽ったらしい)、堕落していったという歴史があるようです。

(以下、友人Kのメールを引用します)

房中術は気の塊を作ったり、濃縮する時に、自分の気だけでなく他人の気をもらってこよういう発想から産まれたようです。男女の性の交わりによって精気を摂取すると一般に云われていますが、性の交わりという部分は皇帝や貴族階級が享楽の為に考え出したものでしょう。その証拠に、性交の相手は年齢に反比例しなければならないと云っています。ですが、気の性質からすれば性交は不要で、例えば、元気な人の側に行くと元気になったりした経験があると思います。

外丹法
…自然界の材料から丹を創造する方法

錬丹術(金丹の術)は丹砂などから金丹を取る法です。理論は西洋の錬金術に通じます。 丹砂とは硫化水銀のことで、これを炉の中で昇華させると水銀が取れます。主に丹砂が用いられたのは、水銀がほとんど全ての金属と合金にでき、また化合に際して次々と色を変えるため「物質変成の鍵」とされ、体内に取り込めば心身を変成できると考えられたためだそうです。

金丹にも多くの種類があり、丹砂に雄黄(硫黄と砒素の化合物)や岩塩などを混合し、これを何日間も炉で熱する(この時ある種の儀式<人に見られてはいけない>が必要らしい)と、混合物の種類や分量によって様々な金丹ができたといいます。

つまり、仙人になるために水銀や砒素を服用していたということ。日本でも和歌山の砒素中毒事件があったばかりですが、中国では多くの権力者が不老不死を夢見て水銀・砒素中毒で死んでいったのでした。

そして賈敬も…「その腹の中は死んだ今でも、鉄のように固くなっているし、顔の皮膚や唇は赤黒く焼けただれて亀裂ができていました」


扶乩(ふけい)

「(妙玉は)道婆に香を焚くように命じ、長櫃の中から砂皿と乩架を取り出して、お符を書き、岫烟にいって拝礼を行いお祈りをさせました。それが済むと立ち上がり、妙玉と二人でもって弓の両端を支え持ちます。と、その乩筆は急に動き出して、すごい速さで文字を書き始めました」(第95回)

宝玉が通霊玉をなくした時、岫烟が妙玉に頼んで(妙玉はごねたけど)扶乩をしてもらい、通霊玉の在処を求めました。また、第4回でも応天府の門番が賈雨村に、扶乩の託宣だとして裁判の判決をねじ曲げるようにアドバイスしています。

扶乩(扶鸞ともいう)とは日本のコックリさんと同様の民間呪術で、霊を降ろして行う占術の一種だそうです。その手順は

(1) 乩木(二股の木)の下に筆の役割をさせる棒をつけ、砂上に置く。
(2) 神降ろしを行うと砂の上に文字が書かれる。
(3) その文字を解読すると神意がわかる。

というものです。乩木を持つのは一人の場合と二人の場合があり、描かれるのも文字だったり象形だったりするそうです。紅楼夢では妙玉と岫烟が二人で支え、文字が書かれました。

乩木にかかる神霊もある程度決まっていて、妙玉が招いたのは鉄拐(てっかい)仙人でしたが、最もオーソドックスなのは呂洞賓という神仙だそうです。


参考:「道教の本~不老不死をめざす仙道呪術の世界」(学研)

友人Kのメールに基づき再編成しました。


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