原作109話「同行二人」で、金沢に到着した五代君がまず訪れたのは兼六園でした。
五代君が妄想にふけって信楽焼のタヌキに激突したのは、桂坂(蓮池門通り)近くにある「堤亭」です(写真をクリックすると原作との対応図が見られます)。現在も変わらず営業しておりますが、残念ながらタヌキは見あたりません(^^;
五代君がベンチに座ってガイドブックを読んでいた場所は特定できませんでした。兼六園には霞ケ池(かすみがいけ)と瓢池(ひさごいけ)という2つの池がありますが、個人的には園内を流れる曲水のほとりの方が雰囲気的に近いように思います。なお、園内にあるのは全て背もたれのない石のベンチであり、五代君の座っていたタイプのベンチはありません。
食事処「堤亭」 |
山崎山付近 |
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五代君が兼六園を走り回っていた頃、響子さんは旧東廓(きゅうひがしのくるわ)をうろうろしていました。現在は「ひがし茶屋街」の名が一般的で、道の両側に紅殻格子の建物が立ち並んでいます。
響子さんが「ぽつん…」と立っている左側にある建物は、提灯と2階の様子から金沢市指定文化財になっている「志摩」、響子さんが「うろうろ」していて女性に声をかけられ、「あの…」と言っているのは、提灯と建物の造りから金沢市指定保存建造物になっている「懐華楼」の前ではないかと思われます。
ひがし茶屋街 |
懐華楼向いの民家 |
響子が「あの…」と言った懐華楼 |
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○2010年に「金沢湯涌江戸村(公式サイト)」としてオープンし、作中に登場した「旧松下家住宅」や「旧高田家住宅」も現在はこちらに移されています。
私もめぞん一刻homepageで紹介されている鹿島屋旅館に宿泊してみましたが、帰宅後に写真を整理していて、鹿島屋旅館の向かいにある民家が「むろう家旅館」に酷似していることに気がつきました(写真をクリックすると原作との比較図を見られます)。
さっそく鹿島屋旅館に尋ねてみたところ、「この旧家は典型的な金沢の古い商家で高橋幸吉商店といって古鉄業を営んでいて、今は工場を近所に移転させて住居として使っておられます」とのこと。7年ぐらい前に窓のところにあった鉄の格子がとりはずされたほかは15年前と変わっていないそうです。
また、「むろう家旅館」で響子さんが泊まった部屋は「鶴の間」でした(ただし五代君の妄想)が、鹿島屋旅館の女将さんが言うには、鹿島屋にも実は「鶴の間」があって「鶴なんて名前はあまり使っている旅館がないので、本当に泊まられたのかもしれませんよ」と笑っておっしゃいました。
以上から、高橋留美子さんが実際に鹿島屋旅館に宿泊し、その時に撮った写真をもとに「むろう家旅館」を作り出した可能性は非常に高いと判断しました。
鹿島屋旅館 |
むろう家旅館のモデルとなった民家 |
鶴の間 |
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(1)「むろう家旅館」のモデル探し
鹿島屋旅館と「むろう家旅館」 |
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「むろう家旅館」のモデル探しについては、以下の経緯があります。
モデルを特定できたのは、ひとえに、「古都金沢の風情を伝えるお宿」として今なお変わらず頑張っておられる鹿島屋旅館と、商工会議所としても使われた由緒正しい古民家を、今なお住宅として大切に使われている高橋幸吉様御家族様のお陰であると言って過言ではないでしょう。
もちろん、漫画家の方々は、写真一枚あれば、好きな構図で建物を描くことができるはず、という反論もあると思います。
しかし、「竹の間」の入口は、原作にも登場する「鶴の間」と斜め向かいになっており(写真参照)、「竹の間」に泊まった高橋先生が、向かいの「鶴の間」を目にして作品に用いたという解釈も可能です(やや強引ですが)。
以上から、高橋留美子先生は鹿島屋旅館の「竹の間」に宿泊した可能性があると判断しました。
食「竹の間」から見た民家 |
「竹の間」と「鶴の間」 |
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なお、高橋留美子先生はスタッフ一人と共に金沢に宿泊したことが分かっていますが、鹿島屋旅館の女将さんによると「竹の間」は他の部屋より狭いので、二名一室の客に対しては、よほど混雑する時でないと使わないそうです。
なお、鹿島屋旅館の御主人より、次のようなコメントをいただきました。大変ありがたいことです。
「青春の永遠のバイブル、めぞん一刻、年配の私共も感動させられました。そのストーリーの中に私共が細々と営んでおります当館が「むろう家」さんのモデルである、という事ををめぐって緻密な資料をもとにいろいろな推理、推測がなされております。そこに当館の名前が出てくるだけで非常に光栄に感じている次第です。めぞん一刻のファンの皆様の熱烈な探究心には私共同様の「熱き思い」が心底に有るものと確信いたしている次第です。今後ともよろしくお願い申し上げます。」
■鹿島屋旅館(金沢市本町2-19-13)
TEL:076-221-0187
FAX:076-221-7142
○むろう家旅館のモデルとなった古民家は2006年に改築のため解体され、現在は存在しませんのでご注意ください。