2009年3月アーカイブ

book014  芦辺拓氏の「紅楼夢の殺人」を久々に再読しました。
この本のあとがきにも書かれているのですが、芦辺氏は執筆に当たって本サイトを参考にしていただいた(たぶん人物や項目の検索・整理に利用いただいたのだと思いますが)そうで、2004年の発刊の際にはお礼として本書を寄贈いただきました。このような個人的なサイトが多少なりともお役に立てたことはいまだに光栄に思っています。

2007年に単行本化された際にはすぐに購入しましたが、井波律子先生の解説などには何度も目を通していたものの、本文は数年ぶりに読み返してみた次第です。すでにいろいろな方が書評を書かれていますが、私もあらためての感想を述べてみます。

物語は元春妃の省親に始まり、宝玉と姉妹たちが入った大観園で次々に不可解な殺人事件が引き起こされ、頼尚栄と宝玉が謎の解明に立ち上がるというストーリーです。基礎となる場面設定や再構成されたエピソードなどには紅楼夢の世界観が緻密なまでに再現されており、大半を占めるオリジナル部分も違和感なく読むことができます。紅楼夢を知らない方には人物関係を理解するまではやや骨が折れるかもしれませんが、テンポもよく、すぐにぐいぐいと引き込まれていくことを受け合います。

宝玉の性格を改変せざるを得なかったところは違和感を覚える紅楼夢ファンがいるかもしれませんが、最後の謎明かしに続いて明らかになる(紅楼夢ならではの)核心部分にはやはり圧倒されます。芦辺氏が長い構想期間と周到な下準備のうえに苦心して生み出した作品というのも頷けます。中国に「公案小説」なるものがあったことも本書で知りました。

この書を機会に原作を読んでくれる方もいるようですし、紅楼夢に関する質の高い二次作品を世に出したいただいた芦辺氏には、日本における紅楼夢の知名度アップを願う一ファンとして本当に感謝しています。

すでにあちことで話題になっていますが、北朝鮮は中朝国交樹立60周年を記念して(対中関係を重視して)「紅楼夢」の歌劇を上演することになったと報じられています。北朝鮮では1960年代にも劇場版紅楼夢を上映しており、金正日金総書記が「ピパダ歌劇団(血の海歌劇団)」による今回のリメークを指示したとされます。

<中朝国交60周年>金総書記が中国古典「紅楼夢」歌劇版を指導―北朝鮮
http://www.recordchina.co.jp/group/g29775.html

book013斜め読みで恐縮ですが、「夢続紅楼」を読了し、簡約「夢続紅楼」を終えました。熱が冷めないうちに感想などを。

序文によれば、作者の胡楠女史は12歳で紅楼夢を読み、15歳で続作を書き始め、27歳で三稿を経て出版に至ったそうです。紅楼夢の続作者としては最年少であり、内容も極めて成熟したものであると紹介されています。

おそらく現代版の続作に共通していると思いますが、ストーリー展開や各人の結末は探佚学に基づいたものになっています。「曹周本」と「夢続紅楼」に限っても、香菱・迎春の死、黛玉の死と宝釵との結婚、探春の遠嫁、襲人の結婚、元春の死、惜春の出家、寧栄府の破滅、獄神廟、煕鳳の死、巧姐の受難、賈蘭の科挙及第、宝玉の貧窮と出家、警幻情榜といった展開はほぼ共通です(細部は相当に違いますが)。

ただし、そこに至る過程や間隙、探佚学でも諸説分かれる事項については作者の腕の見せ所といった感じで、現行本では生かし切れなかった伏線を上手に拾ってまとめており、いくつもの仕掛けが用意されていて楽しめました。

例えば、曹周本・夢続紅楼ともに宝玉が家を留守にしている間に黛玉が亡くなっています(テレビドラマもそうでしたね)が、「曹周本」では、黛玉は賈母が宝玉との結婚を考えていることを知らされますが、その後、宝玉と宝釵の結婚について元春妃のお声がけがあり、やむなく「甄」宝玉と結婚させられることを知って絶望して亡くなります。「夢続紅楼」では、趙氏が宝玉を陥れるために馬道婆と謀って、黛玉や侍女らとの淫行の噂をばらまき、ついには皇帝の耳に入って、宝玉は問責のため帰郷を命じられ、これを聞いた黛玉が潔白を証明するために死を決意する、という展開になっています。

「夢続紅楼」は「曹周本」より回は少ないのですが、逆に内容は凝縮されている感じでした。また、時に表れる女性らしい(というか少女らしい)描写が印象に残りました。
簡約の各回紹介と年表でおおよその内容はお分かりいただけるかと思いますが、いつの日か抄訳にも挑戦してみたいです(「意訳曹周本」が終わってからですね...)。

井波律子先生の「中国の五大小説(下)」(岩波新書)が3月19日に発刊されます。Amazon.co.jp、紀伊国屋BOOKWEBなどで予約が始まっています。
既刊の上巻(昨年4月刊)では三国志演義と西遊記を、今回の下巻では水滸伝・金瓶梅・紅楼夢を扱っています。

紹介文によれば「一度は通して読んでみたかったあの物語を、練達の案内人と共に楽しむ。講釈師演じる「語り物」から生まれた中国の白話長篇小説には、他に類を見ない面白さが満載。とりわけ五大小説を読むことは、まさに「小説」が生まれ成熟してゆく歴史に立ち会う、限りなく魅惑的な経験に他ならない。読後は原作に手がのびること請合い」 とのこと。

私も併せて購入するつもりでしたので未読ですが、物語紹介+作品論が展開され、原書の面白さを伝える書になっているとのことです。

game002紅楼夢のPCゲームの購入方法およびインストール方法を以下にまとめましたので、購入を考えている方は参考にしてください。

YESASIAというオンラインショップで注文するのがベストであり、日本語OSでもセットアップは問題なしという結論です。私の場合は注文から入手まで1ヶ月ほどかかりましたが、早ければ1週間程度で入手できるようです(在庫の関係でしょうか?)。

これは初回限定版ですので、特典として主題歌のCDと設定&攻略集がついています。

http://pingshan.parfait.ne.jp/honglou/game1.html

さっそくプレイを始めてみました。プレーヤーは主人公の宝玉ですが、これまでの一切の記憶を失っているという設定で(黛玉に「あなたは誰?」って言われてしまいました(^^;)、黛玉らにいろいろ教えてもらいながら紅楼夢の基礎知識を得られるようになっているようです。イラストも綺麗ですし、作中のあまり目立たない人物や細かいエピソードも丹念に織り込まれているようで楽しみです。

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  • ほーめいさん: 御無沙汰しております。 老婆心ながら、「周一」は月曜日の意味で、口語でもよく耳にするので、私はなるべく「星期」は使わないようにしています。一昔前のような語感があるのかなあ、と見栄を張っているだけですが 続きを読む
  • 夕陽さん: 平山さん ありがとうございました。 公式サイトには確かに「中国文字博物馆计划2009年年底正式开馆。」と記されていました。 ネット検索が相変わらず“へた”で、不自由してます。(^-^) 私も殷墟には昔 続きを読む
  • 平山さん: >夕陽さん お久しぶりです。 曹雪芹記念館は全部で3つ、北京・南京・遼陽にあります。 遼陽の記念館は「曹雪芹の原籍=遼陽」説に基づいて関連資料を展示したものと聞いており、下記のサイトによれば、96年に 続きを読む

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