2008年5月アーカイブ

大観園は曹雪芹が創造した虚構であり、数多くの古典の庭園を総合したものであるとする説が大勢を占めていますが、モデルが実在するとする説もあり、これは大きく南方説と北方説に分かれます。

南方説の代表は清代の詩人の袁枚(えんばい)であり、その著書「随園詩話」の中で「いわゆる大観園は、即ち余の随園なり」と記しています。また、明義(曹雪芹の親友であったとされる明琳のいとこ)も「其のいわゆる大観園は、即ち今の随園の古址である」と記しています。
実は、南京で江寧織造の職にあった曹雪芹の一家が追放されたのち、隋赫徳(ずいかくとく)が後任となったのですが、彼も数年で家産没収となり、その後、袁枚が隋赫徳の所有していた隋公園(つまり曹家の花園)を買い求めて復興し、随園と称したという経緯があります。つまり、随園は曹雪芹が若き日々に慣れ親しんだ家園であったわけです。

北方説の代表は紅学家の周汝昌氏であり、「恭王府考」(1980年)を著して、大観園のモデルは北京の恭王府(花園)であるとしました(ただし、和珅の邸宅として建てられたのは、曹雪芹の死後であるとされます)。他に、趙国棟編著「紅楼夢之謎」では、大観園の規模や情景から円明園をモデルとする説が紹介されています。

新版「紅楼夢」が本日クランクインになったようですが、四川大地震のために当初予定されていたクランクインの公式発表会が6月中旬に延期されたため、宝玉役を始め主要なキャストの発表は先送りとなりました。というわけで、残念ながら新しい情報はないようです。

ところで四川大地震の死者は6万人を越え、被害は更に拡大することが懸念されています。
私も2年前に九賽溝を観光した折、都江堰や汶川なども訪れており、現地の惨状をテレビでみるたびに胸が痛みます。
亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、一日も早い復興を祈ってやみません。

 電視劇紅楼夢で黛玉を演じた陳暁旭さんが病逝されて、今日で一年になります。人民網によれば、一周忌に当たる本日、彼女の遺骨安置式が北京で行われたそうです。
以下、記事の抜粋です。
---------------------
 本日の午前10時、陳暁旭の遺骨安置式が北京の天寿陵園で行われ、陳暁旭の家族、生前の友人、87年版《紅楼夢》のスタッフ及びメディアの記者など200名余りが参加した。儀式は公葬(告別式)、骨箱の送致、遺骨の安置、彫像の除幕、祭祀の献花、の五部で構成された。

 公葬の式典では、87年版《紅楼夢》の監督の王扶林がスタッフを代表して祭文を述べ、陳暁旭の人生を回顧し、《紅楼夢》撮影中のエピソードにも言及した。その後、陳暁旭の父親の陳強則が、家族を代表して各界の人々に謝意を述べた。

 この遺骨安置式にあたり、陳暁旭の家族は、著名な彫刻家に依頼して、彼女の全身像を制作した。顔に微笑を浮かべた陳暁旭の彫像が、濃緑の松柏の中に立った。

 陳暁旭が深圳で亡くなり、彼女の父母が遺骨を持ち帰った後、どこに葬られるのか注目を集めていた。一年後の本日、陳暁旭は24年間芝居、生活、仕事をした北京で長い眠りについた。

人民網(中文)
http://culture.people.com.cn/GB/87423/7233589.html

一昨日、新版「紅楼夢」のクランクインが今月25日になることが正式発表されました。
また、監督の李少紅女史によれば、
・王煕鳳と秦可卿以外の役者は既に確定しているものの、まだ発表しない。
・煕鳳役との噂が流れていた何琳さんは元春役。
・宝玉は5人が演じる。具体的には(1)玉を含んで生まれた嬰児、(2)志向を試されて女性用品ばかり選んだ1歳時、(3)黛玉が栄国府に来る前の8・9才時、(4)黛玉が来て共に遊ぶ宝玉、(5)成熟した宝玉、の5人。宝釵と黛玉も同様に成長する。
とのことです。

新版電視劇《紅楼夢》のサイト

また、監督交代時の「配役選出をめぐるゴタゴタ」に関する記事(日本語)を見つけましたので、貼っておきます(↓)。

http://henmi42.cocolog-nifty.com/yijianyeye/2008/02/post_d971.html

曹操は言わずと知れた三国時代の英傑ですが、曹雪芹の祖先は曹操であるという説があります。「紅楼夢懸案解読」によれば、以下のようなことになります。

康煕年間に編纂された「江寧府志」と「上元県志」という書物に、共に「曹璽伝」があり、彼は宋の武恵王・曹彬(そうひん)の後裔とされています。曹璽は曹雪芹の曾祖父です。

また、曹彬は河北省霊寿県の人とされていますが、「魏志」によれば、曹袞(曹操の第11子)が中山王、曹彪(曹操の第7子)の子の曹嘉が常山郡定真県の王に封じられた(ともに現在の河北省)ため、曹彬も曹操の後裔である可能性があるというものです。

つまり、曹雪芹が曹彬の後裔である可能性があり、曹彬が曹操の後裔である可能性があるため、曹雪芹は曹操の後裔である可能性があるという論法です。ある意味、荒唐無稽な説ですが、ロマンのある話ではありますね。

女媧氏について

| コメント(0) | トラックバック(0)

 紅楼夢は「女媧補天」の神話から始まりますが、さて、女媧(じょか)とはそもそもどんな神様でしょう? 「中国妖怪人物事典」(講談社)や他のWebサイトなどを参照すると以下のようになります。

 女媧は太古の女神で、伏義(ふくぎ)の妹とも妻ともいわれ、人面蛇身の姿に描かれます(ただし、女媧が伏義の妹や妻であったという伝承は後の時代に成立したもので、最古の神話では二人は別々の神であったのではないかとも考えられています)。

 「太平御覧(ぎょらん)」という書物によれば、女媧は人類創造の母神とされます。天地開明のころ、鳥獣虫魚は既に存在していましたが、人間はまだおらず、女媧は池のほとりで黄土の泥をこね、池に映った自分の姿を手本として人間を一人一人こしらえました。その後(面倒くさくなったのか)、数を増やすために縄を泥水にひたしてふりまわすと、その飛沫から多くの人間が産まれました(前者は貴人、後者は貧乏人や愚か者になったとされます)。
 その後、大地には平和が続き、人類は順調に繁殖しましたが、「列子」や「淮南子(えなんじ)」によれば、ある時、天を支える四極の柱が傾いて、地が裂け、世界は大いに乱れました。火災や洪水が続き、猛獣が人々を襲う事態になりました。女媧は五色の石を煉って天にあいた穴を修復し、天がまた傾いたり破れたりしないように、鼈(おおがめ)の足を切り取って四柱に代えたとされます。

 なお、この神話には、共工という神にまつわる続きの話があります。
 共工は炎帝神農氏の子孫で、祝融氏の子とされる太古の神で、赤髪で人面蛇身、洪水を起こす水神とされ、天地を打ち崩すほどの怪力をもっていました。
 「列子」によれば、共工は顓頊(せんぎょく)と帝の地位を争って敗れ、怒りにまかせて暴れ回った末に、天を支える柱がある不周山に激突しました。そのため天柱が折れて、天は傾いて西北が低くなり、地は東南が凹んでしまいました。このため、せっかく女媧が補修した天は再び欠損し、地も押しひしげられて、それっきり直す神はあらわれず、中国の河川が東南方向に流れるのはこのためとされています。

 紅楼夢第1回に「太古の昔、東南の地がへっこんだというが」とありますが、このことを指しています。

紅楼夢第5回で、宝玉が太虚幻境を訪れた際、金陵十二釵の正冊・副冊・又副冊を見ますが、残念ながら副&又副十二釵については三名(香菱・襲人・晴雯)しか本文中には記されていません。

しかし、松枝先生の「曹雪芹原作の八十回以後について」(岩波文庫8巻末)によれば、第19回で畸笏叟の書いた脂評に

 末回の「警幻情榜」に至って、はじめて正・副・又副・三副・四副の芳名を知ることが出来る。
 正十二釵は、宝釵・黛玉の二冠と賈家の四艶(元春・迎春・探春・惜春)、それに李紈・煕鳳とその娘の巧姐、および秦可卿・史湘雲と妙玉がこれである。
 副十二釵は、薛宝琴・邢岫烟・李紋・李綺。
 又副十二釵は晴雯・襲人・香菱の三人のみ。
 この外に金釧児・玉釧児・鴛鴦・茜雪・平児らの人々があるのは疑いないだろう。

とあるそうです(香菱は本文で副十二釵になっていますので、脂評が間違いでしょう)。
松枝先生は「現世における社会的階級的地位とは大して関係ない」と書かれていますが、金陵十二釵が「賈府の姫君+賈府に嫁いだ者+賈府親族の姫君(主役級)」である(妙玉は不明ですが)ことを考えると、個人的には、情榜のランクも社会的立場とある程度はリンクしていたのではないかと思っています。
というわけで、「私版・警幻情榜」をランクづけしてみます。

副十二釵は「賈府の親族の姫君(準主役級)+妾(侍女より上)」と考えて、
薛宝琴・邢岫烟・李紋・李綺・尤二姐・尤三姐+香菱・平児・麝月は固いとして、残る三人は佩鳳・偕鸞(ともに賈珍の妾)・嫣紅(賈璉の妾)
ちなみに、麝月は探佚学によれば、曹雪芹原意の第81回以降で宝玉の妾になるはずでした。また、重要度からいえば、残る三人は夏金桂・秋桐・宝蟾になるんですが、彼女らは十二釵にはふさわしくないからなぁ...

又副十二釵は「侍女(丫頭)の中でも格上の者」と考えて、
襲人・晴雯・紫鵑(元々は賈母づき)、鴛鴦・琥珀(賈母づき)、金釧児・玉釧児・彩雲・彩霞(賈政づき)。あとは迷うところですが、銀蝶・瑞珠(賈珍づき)と賈芸に嫁ぐ小紅

三副十二釵は「これに次ぐ侍女(丫頭)」と考えて、
秋紋・茜雪(宝玉づき)、抱琴(元春づき)、司棋・繍橘(迎春づき)、侍書・翠墨(探春づき)、入画(惜春づき)、鶯児(宝釵づき)、豊児(煕鳳づき)、素雲(李紈づき)、翠縷(湘雲づき)
ここは他の選択も考えられます(抱琴を格上と見るとか、碧痕・碧月・彩屏とか)。
ただ、いわゆる「琴棋書画(抱琴・司棋・侍書・入画)」は一緒にすべき、家政を執った時に探春・李紈・宝釵についた侍書・鶯児・素雲も一緒にすべき、第46回で鴛鴦が挙げた「子供の時分から実の姉妹も同様にしてきた」侍女(素雲・翠墨・翠縷・茜雪)は入れるべき、といった判断をしました。

四副十二釵は「残りの侍女+侍女見習(小丫頭)+その他」と考えて、
侍女は碧痕(宝玉づき)・碧月(李紈づき)・彩屏(惜春づき)
侍女見習は春燕・四児・芳官(宝玉づき)、雪雁・藕官(黛玉づき)、宝珠(可卿づき)
その他として齢官・五児・智能(これは個人的希望)

以上が、ずっとずっと前から試行錯誤してきた「私版・警幻情榜」の現在版(^^;です。同じことを考えたことのある人は他にもいらっしゃると思いますので、御意見をいただけると嬉しいです。

これまでの訪問者

    ありがとうございます。あなたは
    人目の訪問者です。

最近のコメント

  • 平山さん: 平山@頁主です、はじめまして。 インストールの画面は全てスキャンしてあるのですが、ごめんなさい、まとめている時間がありません。ただ、インストールする場所と名前を指定→シリアルコード入力→完了という流れ 続きを読む
  • ひむろとしつぐさん: 初めまして、氷室というものです。 香港で「再續紅樓夢」というゲームを買ったので 色々とネットサーフィンをしていたら、こちらに来ました。多分、これと同じだと思いますがプレイできません。シリアルIDを入力 続きを読む
  • 夕陽さん: メンテナンスの終了、ご苦労様でございました。 平山さんの仰るように『曹雪芹小伝』9月26日にe-honに注文しましたところ、昨日の10月13日やっと届きました。 《原注》や【訳注】があるので、比較的に 続きを読む
  • 平山さん: (夕陽さんと私の掲示板の投稿をブログに転載しました) 今回の日本語訳「曹雪芹小伝」の底本は1984年に刊行された同著の第2版であり、全33章+付録3篇の全訳とのことですので内容的には曹雪芹新伝の方が新 続きを読む
  • 夕陽さん: 日訳「曹雪芹小伝」発売の情報ありがとうございました。 実は8年前、友人が北京からのおみやげに「曹雪芹新伝」(外文出版社・1992年第1版)を買って来てくれたので、辞書を引きっぱなしで訳し始めましたが、 続きを読む
  • 平山さん: >夕陽さん コメントの承認が遅れて申し訳ありませんでした。 夕陽さんもいつの日か殷墟に足を運べるといいですね。 安陽はいかにものんびりした地方都市といった印象でしたが、あちこちで大がかりな工事が行われ 続きを読む
  • 夕陽さん: 平山さん、お帰りなさい。 北京西駅-安陽間の和諧号の具体的な時間や、その他参考事項、ありがとうございました。私も殷墟には是非行きたいと思っていますが、いつになることやら・・・。 殷の門は、まさに鳥居で 続きを読む
  • ほーめいさん: 御無沙汰しております。 老婆心ながら、「周一」は月曜日の意味で、口語でもよく耳にするので、私はなるべく「星期」は使わないようにしています。一昔前のような語感があるのかなあ、と見栄を張っているだけですが 続きを読む
  • 夕陽さん: 平山さん ありがとうございました。 公式サイトには確かに「中国文字博物馆计划2009年年底正式开馆。」と記されていました。 ネット検索が相変わらず“へた”で、不自由してます。(^-^) 私も殷墟には昔 続きを読む
  • 平山さん: >夕陽さん お久しぶりです。 曹雪芹記念館は全部で3つ、北京・南京・遼陽にあります。 遼陽の記念館は「曹雪芹の原籍=遼陽」説に基づいて関連資料を展示したものと聞いており、下記のサイトによれば、96年に 続きを読む

このアーカイブについて

このページには、2008年5月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2008年4月です。

次のアーカイブは2008年6月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。