昨年11月に刊行された合山先生2冊目の紅楼夢専著です。ようやく読了しましたので紹介します。
タイトルがタイトルだけに恐る恐る読み始めたのですが(^^;、合山先生は本気でした。
性同一障碍害は日本でも近年知られるようになりましたが、当時も認知されていなかっただけで障碍者はいたはず → 宝玉の風変わりな言動や志向は、彼が性同一障碍者だったとすれば合理的に解釈できるのではないかという仮説から、作中の描写を性同一性障碍の診断基準に照会したり、実際の障碍者の方や医療関係者に意見を伺ったりしながら推察されています。
例えば、宝玉が少女を賛美し、交じって遊ぶのを好み、一緒に暮らす女性たちに性欲を示さず、女性の持ち物や化粧に強い嗜好を示すのは宝玉の内なる性が女性であるためであり、宝玉のモデルである曹雪芹こそが性同一性障碍者であり、宝玉が立身出世や社会との交わりを嫌い、最後に出家するのは性同一性障碍による社会不適合性を意識した結果であり、紅楼夢の執筆動機つまり非現実的な大観園を作中に出現させたのは、当時社会に認知されていなかった障碍者として現実の苦悩や悲嘆から脱却することを願ったものという具合です。
紅楼夢の執筆動機は一般には取り潰しにあった自家の冤罪をそそぐために書かれたものとされていますが、合山先生は作中で家中の悪事を暴露したり、元春の省親や大観園での生活など全く現実性のないものを描く理由にはならないことから、これには全く反対しています。
前作の「紅楼夢新論」で紅楼夢の仙女崇拝小説であると発表された時には、伊藤先生も執筆動機として成り得ないとして反対されていましたが、今回の説が広く認知されるかは正直疑問ですが、相当の説得力を感じました。まだまだ紹介の足りない部分がありますので、是非御一読をオススメします。
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『紅楼夢』―性同一性障碍者のユートピア小説
刊行 2010年11月
著者 合山究(九州大学名誉教授)
出版 吸古書院
定価 7000円+税
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